小説 | ナノ
嘘つきイザイザと壊れたシズちゃん




フローリングの床に散らばるのは、この間買ったばかりの少し高価な皿。カレーを盛るのにちょうどいいと思っていたそれは、季節違いの雪のように床に積もっていた。
その皿の破片の真ん中に立っているのは雪を喜ぶ子どもじゃなくて、既に立派な成人男性。まだ片手に生き残っている皿を、俺の顔を見たとたん床へと叩きつけてしまった。
あーあ。全滅じゃないか。

「どこ、行ってたんだ」

喉から出た声には可愛さのかけらも感じない。俺を睨みつける瞳には憎しみ以外になかった。いや、嫉妬かもしれない。

「見て分からない?買い物に行っていたんだよ」

両手に持っているビニール袋を見せると、そんなこと関係ないだろと喚き散らされた。昨日嬉しそうにプリンを頬張っていたのはどこのだれか聞きたい。それも俺が買って来たものなのに。
俺の言葉にさらに怒りを増したシズちゃんは、いつの間にか盗られていた俺の携帯をポケットから取り出した。

「こんなものいらないよな?だって臨也が電話するのは俺だけだ。でも臨也はずっと一緒にいるから携帯なんていらないよな?」

そう言って一つの携帯電話は二つになりましたとさ。めでたし。
可哀想な携帯電話。君と一緒に何人もの人間との交遊関係は死んだ。まぁシズちゃんとの関係は残念ながら死なないね。

「でもそれと皿を割るのに何の関係があるのさ」

何の罪もない白い皿たちは、一度も役目を果たせず泣いているよ。これからどんな料理を乗せるのだろうかとわくわくしていただろうに。それを壊しちゃうだなんて、シズちゃんは酷い奴だなぁ。

「この皿、誰と選んだ?」

ギクリ。聞こえないはずの音が聞こえた。今のシズちゃんは裁判官で、俺は被告人。割れた皿たちは傍聴席にいる第三者。いや、被害者かな。
問い詰めるようなシズちゃんの視線に、俺は背中に冷や汗をかき始めている。哀しみに暮れる被害者の上をひょいとジャンプして、シズちゃんは俺の方に近寄って来た。手に持っていた袋を重力の従うまま床に落として、俺はとりあえず後ずさった。

「やだなぁ、だから一人だって」
「髪の長い女と選んでたよな?」

ギクギク。この音は何だろうか。俺の逃げ道がなくなる音に違いない。
あの日は確かに仕事の同僚である波江と買いに行った。弟に異常な愛情を注ぐ彼女とは不本意ながら気が合う。しかしまさかそれをシズちゃんが知っているだなんて。
愛の力?まさか。ただのストーカー。

「来てたの?」
「臨也が心配だからついて行った」

それは一体何の心配なのやら。俺には君の方が心配だよ。可哀想に波江は俺の共犯者だ。顔も見られているし、きっと名前も直にバレるんだろう。あぁ、これでまた罪のない人たちがこの裁判に引きずり出されるのか。

「この浮気者」

そう言って頬に感じた鋭い痛み。でもそれ以上に理解できないシズちゃんの言葉。浮気者。彼は確かにそう言った。でもそれは前提として恋人のいる人間にのみ使用できる言葉だ。少なくとも、俺に恋人はいない。こちらから愛を与える存在はいない。廃棄処分してやりたいほど愛を与えてくれる奴はいるけど。

「ごめん、ごめんねシズちゃん。誤解なんだ。これは浮気じゃない」

だって俺と波江が付き合ったとしても、それは正常だ。社会的に後ろ指を刺されることはない。ありえない組み合わせだけど。

「臨也には俺だけいればいい。俺にも臨也だけなんだから。俺は臨也の事愛していて、臨也も俺のこと愛してる。だから他はいらない」

そこまで思い込めると逆に拍手喝采ものだ。観客は立ちあがって拍手しているよ。まぁ観客は俺だけだし、心の中で腹を抱えて笑っているけど。
しかしずいぶん懐かれたものだ。人間どころか猫にすら威嚇される俺に残ったのは割れた皿と壊れているシズちゃんだ。出会った時からこんな感じだったから、もしかするとこれが普通なのかもしれないけど。

「うん、俺もシズちゃんのこと愛してるよ。だからこうして一緒に暮らしてるんだ。離れたくないからね」

一緒に暮らしているのはシズちゃんが旅行鞄と包丁片手に俺の家での同棲を迫ってきた結果だし、どこに逃げてもシズちゃんから逃げられないから離れられないだけだけど。まぁ愛しているというのは、うん。

「そうか。やっぱり俺たち、両想いなんだな」

頬を赤く染めながら抱き付いて来るシズちゃんは子どものようだ。本物の子ども以上にたちが悪いけど。
シズちゃんが寝ている間に勝手に外出したら泣きわめくし、仕事で外に行くときはいつも大喧嘩。
シズちゃんの食べたいものを作らないと拗ねるし、冷蔵庫にプリンが常備されてないと同じ。毎晩一緒に寝て、一緒にお風呂に入って。しまいには一緒にトイレに入って。一体どこの刑務所やら。恐らく俺に、プリズンブレイクはできないだろうに。

「これからもずっと一緒にいような。俺たちは愛し合ってるんだから、当然だろ?」
「……そうだね」

あ、そう言えば。
俺シズちゃんに出会ってから、嘘しか言ってないや。











嘘つきみーくんと壊れたまーちゃんパロです。チャットにてたぎらせて頂きました。

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