「ひびやくんっひびやくんっ!」 「なんだ下僕2号」 「げぼくじゃないもんサイケだもん!」 「……」 私の日課である読書の時間を妨害してきたのは、特に役に立つことのない下僕2号ことサイケだった。テーブルにある紅茶の入ったカップが揺れるほどバタバタと騒いでいる。それにあからさまに眉をしかめて見せるが、サイケが騒ぐことをやめることはなかった。 「で、なんだ?私の読書を邪魔しただけの用事はあるんだろうな」 「あるよあるよ!あのね、ひびやくんはえっちしたことあるの?」 「……えっち?」 聞いたことのない言葉だった。私は見かけによらず知らない言葉が多い。普段耳にすることのない言葉だと尚更だ。こうして本を読むのも知識を深めるためだったりもする。私よりサイケの方が物知りだなんて、許せるわけがない。 どんなものかは後で臨也のパソコンで調べればいい。恐らくサイケのことだ。きっと幼稚なことなんだろう。 「当たり前だ。私を誰だと思っている」 「え、そーなの?でもデリックが……」 「……あいつがどうかしたか?」 サイケの口から出た下僕1号の名前に思わず反応してしまう。最近デリックの様子がおかしいのは薄々感じていた。私とデリックは不本意ながら同室だ。私がベッドで眠り、あいつは床に寝ている。そのとき私の寝ている姿をデリックが無言で見ているようだ。この前偶然目を覚まして気付いた。だから近頃は寝たフリをしてデリックの様子を伺っている。何をするでもなく、寝ている姿を見ているだけの様だった。 「うー……なんでもない!ありがとうひびやくんっ」 結局えっちとはどういう意味の言葉なんだろうか。少し気になったが今日は臨也の家に行く用事はない。調べものだけの為に行くと怪しまれてしまうので、調べるのは後日にしようと思う。 「……どこまで読んだか忘れてしまったではないか」 夜遅くにデリックは帰ってくる。その頃になると津軽とサイケは別の部屋で過ごしている。私も自室に戻って眠気を感じるまで読書や音楽鑑賞をしていた。今日は昼間に寝たこともあって、なかなか眠くはならなかった。 日付が変わりそうな頃、デリックは帰ってきた。だからと言って出迎えるわけでもなく、ただ帰ってきたという意識しかない。デリックは部屋には戻らず津軽たちの部屋に行ったようだ。9時を過ぎると津軽たちと私たちは、互いの部屋に入らないという規則を作っていた。どういう理由かは分からないが、津軽から言い出したことだ。特に問題はないから了承した。だからだろう。向こうの部屋からは津軽の怒鳴るような声が響いてくる。サイケが寝ているなら静かにしてやればいいのに。 「……よぉ」 しばらくするとデリックは部屋に戻ってきた。朝とはまた違う匂いがした。デリックはどうやらホストという仕事をしているらしい。調べてみると女性とお酒を飲んだり、会話を楽しむ内容だそうだ。よく分からないが、デリックは女性に人気があるらしい。確かにこの男は整った顔をしているのかもしれない。 「なぁ……日々也ってよぉ、もうヤったことあるんだってな」 「や……?」 突然何の話だろうか。首を傾げていると、ベッドに座る私をデリックは見下ろしてきた。あまりいい気分ではない。 「昼間、サイケに聞かれて当たり前だって答えたらしいじゃねぇか」 「あぁ……あれか。それがどうかしたのか?」 口振りからしてサイケに質問するよう頼んだのはデリックなんだろう。ではあの『えっち』とやらはもっと難しい意味なのかもしれない。 「誰とだよ」 「え?」 「初めては誰とだよ」 見たこともないような目でデリックは私を見てきた。私の腕を掴んで、力を込めてきた。痛みに眉をしかめるが、離す気配はない。 「か……関係ない、だろ」 何のことを言われているのか分からないから、そう答えるしかなかった。下手なことを言って嘘をついてるのがバレるよりはいいだろう。 「……そうだな、関係ないな」 言ってから少し後悔した。言い過ぎただろうか。デリックの声が少しさびしそうにも聞こえた。こうして同じ場所で住んでいるのだから、全く関係ないというわけでもないような。変な意地を張りすぎただろうか。 「初めてなんか忘れるくらい、酷くしてやるよ」 その瞬間、私の身体はベッドへと沈んだ。デリックに押されたからだ。ベッドは軋む音を響かせながら、男二人分の重みを支えていた。わけが分からなくて焦っていると、デリックは手慣れたように片手でネクタイを外した。 「お、おい!デリックやめ……っ」 「日々也の初めてはよぉ、自分の言う通りに相手が動くようなやつだろ?どうせ」 デリックはよく分からないことを言いながら、外したネクタイで私の腕を縛ってきた。必死に手足をばたつかせて抵抗するが、力の差は歴然だ。現にデリックは軽々と押さえ込んでくる。 シャツを左右に引っ張られると、ボタンは弾け飛んだ。曝された胸元が寒くて身震いする。私は普段、大きめのシャツ一枚で寝ている。本当は何も着ずに寝たいが、津軽からサイケの教育に悪いからやめろと言われたから譲歩した。 「な、に……っ」 デリックは私の目の前でズボンのチャックを下ろし、下着から性器を取り出した。他人のものなどサイケくらいしか見たことがない。あれとはよく一緒に入浴するからだ。だがデリックのは見たことがない色や大きさをしていた。それを唇に押し付けられる。怖くて奥歯がガタガタと鳴っていたが、デリックにやめる気配はない。 「おら、ちんぽなんか咥えたことねぇだろ?」 必死に口を閉じていたが、鼻を摘ままれ無理矢理こじ開けられる。すぐさま性器が口内に押し込められる。息苦しさに涙が出た。広がる味わったことのない苦味。吐き出そうにもできなくて、飲み込むしかなかった。 「ん、ぐぅ……んふ、く」 「あんま気持ちよくねぇな……おい、舐めろよ」 「ぷはっ……!あ、何を……っ」 唾液に濡れた性器は相変わらず眼前にある。冷たい目でデリックは私を見てきた。こんな目で見られたことはない。いつもデリックは私の言うことを、文句を言いながらも聞いていた。そのデリックが、どうしてこんなこと。指で舌を掴まれ、無理矢理舐めさせられる。痛くて苦しくて、情けなくも涙が出てきた。 「ん……ん、ちゅ……んぅ」 こんなことしたくない。したこともなかった。きっとデリックは私に怒っているんだろう。だからこうやって酷いことをするんだ。私が本当は無知で何も知らないことを知って、今までこきつかわれてきたこともあって限界が来たんだろう。正直、ここまでして私の傍にいてくれたのはデリックしかいなかった。皆私に愛想をつかせて離れていく。きっとこの酷いことが終わったらいなくなるんだろう。それが今されていることよりも怖かった。 しばらく必死に性器を舐めていると、デリックは私をうつ伏せにベッドに押さえつけた。無理矢理頭をシーツに押し付けられ、腰だけを高く上げさせられる。あまりの恥ずかしさに涙の量は増した。 「デリック、やだ……怖い、よぉ」 後ろを振り返ってデリックを見るが、やめる様子はなかった。縛られた手で必死にシーツを握って身体が震えるのを耐えた。男なのに怖がるだなんて情けないし恥ずかしい。それがデリックのせいでこうなっているのだから余計だ。 「日々也ってよぉ、やっぱ女より男にヤらせてるイメージなんだよな。結局はどうなんだよ」 「知らない……っ何にも知らな……」 デリックは分からないことばかり聞いてくる。全部知らないことばかりだ。答えないことに余計苛ついて、デリックは舌打ちをした。 「怖いだのぎゃあぎゃあ騒ぐくせに勃起してるじゃねぇか」 「う、あ……?」 デリックの視線は私の下半身を見ていた。どうしたのかとそこを見ると、おかしな部分が膨らんでいた。 「ひ、あっあぁ!」 触られた瞬間、背筋がビリビリとした。よく分からない感覚だ。今まで自分のそこが膨らんでいるのを見たことはないし、そんな風になるだなんて知らなかった。 「結局は気持ちいいことが好きなんだろ?だって日々也はサイケや臨也と同じだもんな」 「さ、サイケ……?」 あれと一緒にするなと思ったが、こんな風になるのが自分だけではないことにひどく安堵した。デリックは下着に手をかけると、そのまま破いてしまった。小さく悲鳴を上げた私に、デリックは口元を嬉しそうに歪ませた。 「へぇ……やっぱ綺麗な色してんのな」 「な、なにが……?」 よく分からないことをぶつぶつと呟くと、デリックの手は尻へと伸びた。爪が肌をなぞる。そのおかしな感覚に身体は恐怖以外の何かを感じ始めていた。 やがてその指は尻の穴の周囲を撫で始めた。 「んあぁっ!」 デリックの指が、ゆっくりと尻の穴へと入っていった。だが優しいのも最初だけだ。私があまり痛みを感じていないと分かると、すぐに指を増やした。誰にも触られたことのないそこは、ぐちゅぐちゅと恥ずかしい音を立てていた。 「デリック……でりっくぅ」 「んな声出してねだっても」 「やら、怖いのも、痛いのも……やだぁっ」 「じゃあどうしたらいいのか分かるよな?」 「な、なに……したら、いい?」 「日々也の淫乱な尻の穴にちんぽ突っ込んでくださいって言えよ」 「そ、なこと……っ!」 「じゃあもっと怖くて痛いこと、するしかねぇなぁ……」 「ひゃあっ!?」 部屋にパシンっと大きな音が響いた。デリックが私の尻を叩いた音だ。きっと赤くなっているだろうそこを、すぐに撫でまわされる。ひりひりと痛いはずなのに、どうしてか気持ちがいいと感じ始めていた。 「もっと痛いことするぞ?」 「言う、言うから……!叩くの、やだよ」 さっきのを言えば、これ以上何かされることはない。屈辱的だが仕方がなかった。 「ひ、ひびやの……淫乱なお尻の穴に……デリックの、おちんちん……突っ込んで、くださ、い……」 「……」 デリックはしばらく黙ると、私の足を思いっきり開かせた。さっきまで指の入っていた場所に、性器が押し当てられる。私が舐めたせいなのか濡れているそれは、ずりずりと尻の穴を刺激してきた。 「や、おちんちん、ずりずりしないでっ!」「んなの今までも大丈夫だったんだろ?俺のも入るって……」 「ふあぁ……っ」 性器の先端が穴を拡げながら入ってきた。ぐちゅりと音を立てながらデリックを受け入れているそこは、何故か痛くはない。ただどうしてデリックがこんなことをするのか。これが終わればデリックが離れてしまうんじゃないのか。それが怖くて仕方がなかった。 「あ、んぅっふにゃ、あっデリックぅ」 「あ?なんだよ」 「ひびやのこと、きらいにならないれぇ……!いたいのも、こわいのもがまんする、からぁ……っ」 「……」 「ふ、あぁっ!はやい、よぉ!やあぁっ!」 突然腰を掴まれて、デリックはものすごい勢いで性器を出したり入れたりした。尻の穴が熱いような、痛いような感覚。 「ひ、あ、やら、なんかくるっからだ、変だよぉ……あ、ひあぁぁぁぁっ!」 よく分からない感覚が身体に走った。それと同時に私の性器からは、ドロリとした白い何かが飛び出した。 「な、中に何か出て……」 じわじわと身体の中に温かいものが注がれる。それが一体何なのか分かるわけもなく、私はただシーツを握り締めるしかなかった。 「痛くなかっただろ……?俺が日々也にんなことするわけねぇじゃねぇか……」 尻の中に広がる熱いものはいったい何なんだろうか。デリックが何か言っている気がしたが、疲れて眠くて聞き取れなかった。縛られていた腕の痛みを感じないくらい眠かった。 きっとこれは悪い夢で、目を覚ませばデリックがまた文句を言いながら私の言う事を聞いてくれるんだろう。そうに違いないと信じながら、私は目を閉じた。 つ、続くのかな……! |