珍しく運び屋の方から届けものがあるから、新羅の家に来いと連絡があった。運び屋なのだからそっちが来いとメールを返すと新羅から、君の家に向かうセルティの時間が無駄だと抗議の電話がかかってきた。はっきり言って面倒だったが今日の日付を見て仕方なく行くことにした。 一応は客として招いているつもりらしい運び屋はコーヒーを出してくれた。砂糖は入れるかと聞かれたが丁重にお断りした。以前わざとなのか塩を入れられたからだ。 「一年あっという間だね」向かい合うようにソファに座っている新羅はテーブルの上に置かれた包みを見ていた。少し崩れているがピンク色のリボンでラッピングされたそれは、一見すればただの箱だが俺には核兵器にしか見えない。今すぐ外に放り投げたいが、何年か前にそれをしたら恐ろしいことになったのでやめておく。 「彼も一途だよねぇ。まぁ僕のセルティに対する愛よりは短いけど」 「もっと違いを言うと、永遠に一途だろうね」 『これの送り主が誰か分かってるのか?』 新羅の分のコーヒーを持ってきたセルティはそのまま新羅の隣に腰かけた。 「まぁね。ちなみに情報が入ってきたとかじゃないから。毎年だから嫌でも分かるよ」 そう、毎年だった。毎年この日になるとある物が俺のもとには届けられた。たいてい送り主本人が直接渡しに来るが、今年はこの手段で来たのか。 「……運び屋、これの中身知りたいかい?」 『まぁ……少しは』 「いいよ、見せてあげる」 リボンをナイフで引き千切り包み紙を開くと少しへこんだ白い箱が出てきた。その蓋を握りつぶす勢いで開けると、中にはこの時期になると店頭に大量に並んでいるものが出てきた。 『……チョコレート、だな』 「そう、静雄の手作りチョコレートだよ」 『!?』 この送り主というか作り主は平和島静雄だ。そして今日は2月14日。この箱を俺に渡すように依頼したのはシズちゃん本人でなく、全く知らない男だったらしい。どうせそこらへんの通行人脅してセルティに渡すように言ったんだろう。 「手作りとか律儀だよね。まぁそこが静雄らしいというか……」 「味はノーコメントだけど、見た目は毎年レベルが上がってるからね」 綺麗にハート型に固められたそれからはわずかに甘い香りが漂ってくる。良く見ると端の方には手紙だろうかメモが挟まれていた。もちろん読む気なんてない。おそらく気持ち悪い文字の羅列しかないだろうから。 『新羅は静雄が臨也のこと好きだと知っていたのか?』 「そりゃ気付くよ。高校の時からそうだったからね。臨也のリコーダー咥えたり、好き好き言いながら追いかけ回すのは日常茶飯事だったし」 『……』 「ちょっと……リコーダーの話は初耳なんだけど」 「あれ?そうだっけ」 今から口を濯いでも意味はないだろうか。急激な吐き気が襲って来た。なるほど。俺が授業でリコーダーを吹くたびに、皆が異様に注目していたのはこのせいか。誰か一人くらい言ってくれたっていいじゃないか。ドタチンまでシズちゃんの味方か。 「でも愛情表現は変わってるけど、静雄の愛は本物だろう?」 「ついに変な病気にでも感染したのか新羅?本物か偽物かだなんてことに興味はないんだ。相手がシズちゃんなことに大きな問題があるんだよ」 年齢だとか性別だとか立場なんてものは愛の前では後回しだと俺は思っている。だがシズちゃんだけは別だ。 「どうかしたのかいセルティ」 『いや……前に狩沢が言ったことを思い出してしまって……』 「……なんとなく想像つくから言わなくていいよ」 きっと運び屋に顔があれば真っ青な顔をしているんだろうな。同意するよ。でも君は見たことがないからまだマシなんだ。頬を赤く染めながら可愛らしくラッピングされた箱を差し出してくるシズちゃんは、それはもう恐ろしい以外の何物でもないよ。 「でもさ、嫌な気はしていないんだろう?臨也は昔から人の好意に弱かったよね。告白してきた子にはちゃんと返事してただろ」 「……断った時の反応が見たいからだよ」 『お前は静雄が嫌いなんだよな?』 「別に。シズちゃんに対して何も思ってない。あえて言うなら嫌いだよ」 何だか居心地が悪くなってきた。セルティの淹れてくれたコーヒーを一口も飲まずに帰ろうとしたら、新羅にメスを投げつけられた。仕方がなく飲むと、何故か塩辛かった。結局入れてるんじゃないか。 外に出るとちょうどポケットに入れた携帯が震える。差出人は嫌でも分かる。たぶんきっと、下の玄関で待ち伏せてる男だろうに。自然とにやける口元を慌てて隠して、俺はエレベーターのボタンを押した。 (静雄もどうして臨也なんだ……) (あぁ言いながら、臨也も満更じゃないんだよ) (……そうなのか?) (そりゃ、ホワイトデーにお返しあげてるんだからさ、手作りの) 去年くらいに書いてたのに更新し忘れてたバレンタイン話。 気持ち悪いシズちゃんのつもりが臨也君がデレてしまい撃沈。 シズちゃんの手作りチョコは裏でこっそり食べてたりする。 |