ベッドの上に横たわるサイケの身体には、たくさんコードが繋がれていた。室内は妙に寒気を感じる。備え付けられている大きな機械たちは、静かに動き続けていた。 「……サイケ」 「あ……つがる、だ……」 俺が手を握るとサイケは嬉しそうに微笑んだ。俺も真似して笑う。果たして上手く笑えているだろうか。 サイケの様子がおかしくなったのは1ヶ月前だった。最初はずっと眠そうに、目を擦っているだけだった。なのに。 「まだ……ねむい……おひるねしたら、よる……ねれなくなっちゃうのに……」 サイケの睡眠時間は、どんどん長くなっていった。昼寝が増えて寝坊も増えて、ついには1日のほとんどを寝て過ごすようになった。そうなると食事をすることもできない。俺たちは食べなくても平気だが、人間は違う。人間が食事を摂らなければ餓死するように、俺たちのプログラムにも最低限何か食べないと壊れるように設定されていた。そんなところだけ、人間に似せてくれなくて良かったのに。サイケは、水分摂取もできないほどになっていた。 「どんな感じだ?」 「んー……なんか……ぼーっと、する……」 そしてついに、サイケは倒れてしまった。久しぶりに調子が良かったから、サイケの希望で散歩に出かけた日のことだった。咲き始めた花や蝶に笑顔を溢すサイケは、俺の袖を引きながら本当に楽しそうだった。 しかし、まるで眠るみたいにゆっくりと。サイケは動くことをやめてしまった。地面に倒れ込むサイケを抱き留めることしか、俺にはできなかった。 それからサイケはずっと、ベッドの上だ。今までと違う、暖かみの感じられないベッド。 「つがる……」 「……あ、」 サイケの手が俺の顔に伸びる。だが、身体に繋がるコードが邪魔して届かなかった。悲しそうにサイケは笑う。たまらずその手をとって、自力で立つことさえできなくなった身体を抱き締めた。 「サイケ、サイケ……」 「おれ……つがるにね……ぎゅってされるの、すき……」 これは病気なんだと臨也さんは言った。サイケは未熟で未完成で、それなのに。 「俺も……サイケ抱っこするの好きだ」 「……おもくない?」 「そんなわけあるか。軽すぎるくらいだぞ」 耳元でサイケの笑う声が聞こえる。サイケは俺のことが好きだった。でもそのせいで心は耐えきれなくなって、壊れてしまった。俺の些細な言動に喜んで、嫉妬して泣いて。そんな複雑な感情を溢れさせながら最後に行き着いたのは、この恋は叶わないという答えだった。 治すには、サイケのデータを全て消すしかないらしい。全部忘れて真っ白になる。今まであったこと、臨也さんや静雄さんや、俺のことも忘れて。 消すかどうかは俺が選ばないといけない。サイケには難しいからと、自分がどうなっているか一切知らされていない。どうしてこんな辛い選択を、しなければいけない日が来たのだろうか。「つがる……あまえんぼ、だね……」 「サイケだから、甘えるんだ」 「そ、なの……?うれしい……」 全部消すだなんて。そんなこと、俺にはできない。俺はきっと、気付いてたんだ。サイケが俺のことを好きだって。俺の名前を呼ぶ声が、他とは違っていたことに。俺に向けられている笑顔が、特別なことに。 「サイケ……」 「つがる……」 きっとこれは、サイケの想いに目を背けた俺への罰なんだ。 俺はサイケさえ居たら幸せだ。他には何もいらない。世界にサイケさえいればいい。そう思ってたのに。 「つがる……」 「ん……?」 背中を叩かれて抱きしめていた身体を離す。でもできるだけ離れたくなくて、サイケの首筋に顔を寄せた。サイケの指は、俺の頬に触れた。 「つがる……なかないで……」 まさか泣いてるのかと思って頬に手を当ててみるが、そこには涙なんてなかった。それでもサイケは辛そうな顔をして俺の頬を撫でてくる。 「つがるが、ないたら……おれも……かなしいか、ら……」 「俺も、サイケが泣いたら悲しい……」 「……おんなじ、だね……」 あぁ、泣いているのはサイケの方じゃないか。俺の頬を撫でていた手に口付けると、サイケは泣きながら笑った。いつも不器用なのに、どうしてこんなときに器用なことをするんだ。 「ふあ……ねむくなっちゃった……」 「……そうだな。俺も眠いから、一緒に寝ような」 「ほんとに?……おきても、つがる、いるの?」 「あぁ、いるよ。サイケが寝ても、ずっといるから」 「うれしい……ねぇ、つがる……」 「ん?」 「……わすれない、でね」 「……サイケ?」 「……」 泣かないで、つがる。おれはつがるの思い出の中にずっといるから。 「美しい名前」って曲を聞いてたらこんな感じのが。あの曲は素晴らしいですよ。脱・変態紳士津軽。カムバックただの紳士津軽。あまりこういう内容は書き慣れませんぐぐぐ。 |