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おめでとう、ありがとう



静雄誕生日小説。遅いとか言わない。





誰かの誕生日を祝うだなんて今までしたことがない。家族のだってありきたりな言葉をかけるだけで、特別何かしようだなんて思ってもいなかった。
だから俺はどうしていいのか分からない。もちろんネットや色々な手段で祝い方を知ることはできた。でもそれは他の誰かもしているということで、シズちゃんにそれらと同じことをしたくはなかった。

俺にしかできないことをしてあげたい。そう思って何となく池袋に来たのだけれど、特に思いつくことはなかった。
それ以前にすでに日付は28日で、今日が終わるまで12時間もない。日付に変わった瞬間にメールや電話をしようと思ったが、なんて言っていいのか分からなくてできなかった。気が付けば寝ていて、窓の外はずいぶん明るかった。

とりあえずケーキは買った。普通の生クリームのケーキと、プリンも買っておいた。もしかしたら何人かはシズちゃんが甘いものが好きだって知ってるから、もう食べてしまったかもしれない。買ってから気付いてしまったからどうしようもない。

そうこうしているうちに、どんどん時間は過ぎていった。緊張を隠すために鼻歌を歌いながらシズちゃんの家に向かった。今から行くだなんて言ってない。だって驚かせたいから。今日は仕事先から、誕生日祝いとして休みをもらっているということは把握している。どう過ごすかは、把握していないが。

ケーキを傾けないように気をつけながら、階段を上った。ポケットにいつも入れている、シズちゃんの家の合い鍵。もちろん勝手に作ったものではなくて、本人から正式にもらったものだ。
ほとんど使ったことのないそれで鍵を開けて中を見れば、家の中はしんとしていた。

「あれ……いないのかな」

玄関にはいつもシズちゃんが履いている靴が見当たらない。もしかすると煙草を買いに行っているのかもしれない。そう自分に言い聞かせた。俺がいるのに、他の誰かと過ごしてかも。そんなん不安を消すみたいに、俺は少し乱暴にドアを閉めた。

たいしてものが入っていない冷蔵庫にケーキの箱を入れて、とにかく待つことにした。一人でこの部屋にいるのは初めてかもしれない。
いつもはシズちゃんが一緒にいて、必ず俺の横に座ってた。部屋の中には緊張を隠すためにつけたテレビの音声が響いていて、二人に会話なんてない。
でも、シズちゃんはずっと俺の手を握っている。俺がソファから立とうとすると、渋々離しては戻って来るとまた手を繋ぐ。
今思い出すと随分恥ずかしいことをしていたと思う。でも今の俺の隣には、帰ろうとしても引き留めてくれる人はいなかった。

ここに来てどれくらい経っただろうか。俺は気付かないうちに眠ってしまっていた。テレビをつけるのも面倒で、暖房を入れてもいない室内は寒くて仕方がなかった。それでも外よりはマシだろうとソファの上で身体を縮こませる。
カーテンの締めていない窓の外は、暗くなっていた。そう言えば、部屋の中も暗いことに気付いた。

「……そういえばケーキだけで、プレゼント買ってないや……」

もし帰って来たとして俺は何と言って祝うつもりだったんだろう。誕生日おめでとう、生まれてきてくれてありがとう。そんなことを言えばいいのだろうか。
よく分からない。言葉では言い表せないくらい、俺は今日が嬉しくてたまらないはずなのに。

「……もう、帰ろう」

そう呟いたところで、もちろん返事が帰って来るわけがない。冷蔵庫のケーキはたぶん気付いてくれるだろう。俺が来たことに気付かなければ、恐らくは幽くんが持って来たとでも思うのかもしれない。それはそれでいいのだけれど。

外に出るとやっぱり家の中とは比べ物にならないくらい寒かった。手に持った鍵は金属なせいで、異様なくらい冷たく感じた。早く鍵を閉めて帰ろうと思った時、誰かが階段を上がってくる音が聞こえた。

「……シズちゃん?」

そこには見慣れた金髪がいた。薄暗い電灯が照らしているから見えにくいが、その表情は疲れているようにも見えた。
シズちゃんは俺の姿を見るなり、殴りかかっってくるような形相で近寄って来た。会えて嬉しいだなんて感動は、一瞬でなくなってしまった。

「な、何で俺の家に居やがるんだよ!」

第一声がそれだった。明らかに声は怒りを含んでいて、俺には理解できなかった。もしかして勝手に入ったことを怒っているのだろうか。何か見られたくないものがシズちゃんにもあるのかもしれない。
喜んでもらおうとしたことなのに怒らせるだなんて。俺には誰かを祝うことなんて、無理だったのだろうか。

「だって、鍵くれたんだから勝手に入ってもいいって……ふ、普通は……」

急に悲しくなって、よく分からないが涙が出て来た。怒ってほしかったわけじゃない。ただ笑って二人で過ごしたかっただけなのに。

「……いいからとりあえず中入れよ」

さっさと部屋の中に入ろうとしたシズちゃんの服を掴んで引きとめれば、明らかにイラついた顔で舌打ちされた。

「……帰る」
「はぁ?何言って……」
「だって、俺いても意味ないし。もうお祝いしてもらったんじゃないの?」

だから今帰って来たんじゃないの。そう口では言わなかったけど、言い方からして伝わっているんだろう。
シズちゃんは強引に俺を家の中に入れた。パチリとシズちゃんが壁のスイッチを押せば、それなりに明るくなった玄関。二人してその大して広さのない空間に立ち尽くしていた。先に沈黙を破ったのは、シズちゃんだった。

「……さっきまで手前の家にいた。昨日から連絡つかねぇし、家に行ってもいねぇ。何かあったんじゃねぇかって心配になったけど、もしかしたら今日のこと忘れられてんだと思って……帰って来た」

淡々としゃべっているけれど、その声は少し震えているようにも聞こえた。顔を見たいけど、サングラスが邪魔して後ろからじゃよく見えない。そんなことないよと気持ちを込めるように、服を掴んでいた手にさらに力を込めた。

「忘れてなんかないよ……忘れてるわけないじゃないか。だって好きな人の誕生日だよ?ずっとどうしようって考えたけど、思いつかなくて……ごめん」

掴んでいた手を離すと、シズちゃんは振り向いて困ったように俺を見た。わざわざ俺の家まで自分から行っただなんて。もっと前から約束しておけばよかった。自分が悔しくて涙目になってたら、シズちゃんの肩に頭を押し付けられた。

「俺は手前と過ごせればそれでいい。別に何もいらねぇよ。だから泣くな」
「……シズちゃん」

シャツの袖で目を擦られて、少し痛かった。それでも顔を上げたら笑った顔のシズちゃんと目が合って、なんだか申し訳ない気持ちになった。
他の人とは違う事をしたいと思っていたはずなのに、根本的に祝えなくなるだなんて。

「何か……ほしいものある?」

シズちゃんが欲しいものなら何だって用意してあげたい。今の俺なら家でも買ってあげる勢いだ。シズちゃんはまた溜め息をついて、俺の頭を乱暴に撫でて来た。頭が左右に揺れて、目じりに溜まっていた涙が流れてしまった。

「何かしないと気が済まねぇなら今すぐ泣きやんで笑え。あと……今日は帰るな」

顔を真っ赤にしながら言ったシズちゃんは、俺と目があったのが恥ずかしいのか抱きしめて来た。顔は見えなくなったけど、真っ赤に染まった耳は目の前だ。いつの間にか涙は止まっていて、寒いはずの室内は温かかった。シズちゃんの背中に腕を回してこれでもかと抱きしめ返す。

「……言われなくても笑うし、帰る気なんてないよ」

そう言ったら抱きしめられる力が強くなったような気がした。シズちゃんの誕生日なのに俺まで喜んでいいのだろうか。何だか申し訳ないから、ケーキは俺が食べさせてあげよう。
あと少しで今日は終わるけど、俺はずっとシズちゃんの傍で笑っていたいよ。


















甘いの苦手だって言っておくよ遅いけどー!とりあえずエロは無しにしようと決めていた。
私とみんなには時差があるのだ。

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