小説 | ナノ
それおいしいの?





イライライライラ。


実際にそんな音が聞こえてきそうなほど、隣に座るシズちゃんはイライラしていた。

池袋での取り引きが終わって携帯を見たら『来い』と一言だけかかれたメール。いくらなんでも場所くらい書いてほしい。
おそらく自宅だろうと思って合鍵でドアを開ければ、玄関で仁王立ちしているシズちゃん。

「……すみません間違えました」

思わずドアを閉めてしまった俺は正しい判断だと思う。だってドアを開けて、いきなり銃向けられるくらい恐ろしいよこれは。

「何が間違いだ手前」
「いや、思わず……」

いつから待っていたんだろう。よくよく考えたらあれは出迎えてくれたって事かな。ちょっと嬉しいかも。

「まぁちょうど出かける前だったしよ、入れ違いにならなくて良かったな」

前言撤回。こいつにそんな気遣いとか、俺が人間嫌いになる確率くらいありえない。その前に、俺が来るの分かってて出かけようとするなんて信じられない。呼び出したのはそっちだし、仮にも恋人だろうが。

シズちゃん家で一番値段が高そうなソファに二人して腰かける。一応コーヒー出されたから歓迎されているのだろうか。
しかしこのソファやけに振動する。なんの機能付きだ。手に持ったコーヒーが溢れそうなんだけど。

「ねぇシズちゃんこのソ……」

全部聞かなくても横を見たらすぐに分かった。シズちゃんの足がこれでもかと上下に揺れている。これは貧乏揺すりだろうか。

「あぁ?なんだよ」
「いや、なんでもないです……」
「……ちっ」

シズちゃんはまた貧乏揺すりを続ける。しまいには舌打ちも始めた。もしかして俺はストレス発散として殴るために呼び出されたのか。なにそのドメスティックバイオレンス。
「おい臨也」
「なに」
「手ぇ貸せ」
「……は?」

いきなり差し出してもないのにシズちゃん側にあった右手を掴まれる。俺はこれから指折られるのか。ご丁寧に指輪まで外してきた。パソコン打てなくなるのは勘弁してほしい。
シズちゃんはじっと俺の指を見つめる。なるようになれと俺は目を閉じた。

「ひっ」

いつまで経っても骨が折れる感覚はなくて、変わりに湿った感覚。目を開けると俺の指は第二関節から先がシズちゃんの口の中消えていた。指先に生ぬるい感触が当たる。舌で何度か舐めると、いきなり甘噛みされた。

「ちょ、ちょっと」
「ん、」
「なに急に」ちゅぷっと音を立てて口から指が引き抜かれる。見事に唾液でてかてかと光っていた。今すぐ手を洗いに行きたい。

「……煙草は体に悪い」
「あー?……うん」
「だから禁煙しようかと思ってよ」
「ふーん、で?」

今まで吸いまくってた奴が何言ってるんだ。煙草を一回でも吸った肺は二度と元の綺麗な肺には戻らないんだよシズちゃん。

「でもよ、ずっとくわえてたもんが急になくなるとこう……口寂しいっつうか」
「はぁ……」

俺があれだけ煙草辞めろって言っても聞かなかったくせに、おおかた幽くんに注意されたんだろう。このブラコン野郎め。

「最初は割り箸とかストローくわえたけどよ、いまいちしっくりこねぇ」
「……だからってなんで俺の指かな」
「……前にヤったときに舐めたら、なんかうまかったから」
「死んで」

軽く手の甲にキスされて、また指がシズちゃんの口に消えていく。どこに煙草をそんなエロく舐めるやついるんだ。あぁここにいるのか。なんで俺はシズちゃんが好きなのか、今だに分からない。













(俺が禁煙できるまで帰んなよ)
(……ダサい誘い方だね、シズちゃん)
(……だまれ)















禁煙しろ言うくせに、シズちゃんの煙草の匂いが自分の服につくと嬉しい臨也。


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