小説 | ナノ
作り物の恋心








毎日毎日、彼は飽きもせず俺の身の回りの世話をした。悪戦苦闘しながら服を着替えさせて、乱れた髪を櫛で整えて。
お風呂も一緒に入った。彼は俺の身体を綺麗だと言って丹念に洗ってくれた。だから毎日俺の身体からは彼と同じ匂いがした。
自分の髪はタオルで適当に拭くだけなのに、俺の髪はドライヤーで物凄く丁寧に乾かしてくれた。

彼は眠る前には必ず俺に口付けた。額や、頬や唇、手の甲。照れたように笑う彼が好きで、温かい腕に抱かれながら俺は毎晩眠りに就いた。
そして彼は俺に愛を囁いた。毎日、毎日。朝も夜も、傍にいるときはずっと。それがなかなか心地よくて、俺は気に入っていた。

ある日、彼は血相を変えて帰ってきた。ドアを乱暴に閉める音が聞こえて意識をそちらに向ければ、低く唸りながら何やら呟いている。

「嘘だ……違う……あいつ、また嘘ついて……臨也は、ちゃんと……だって、いつも……」

彼は眼球を忙しなく動かすと、俺の姿を視界に入れた。いつもは笑いかけるだけの彼の表情は見たことがないものだった。怒っているような、悲しんでいるような。

「あ、わ……笑えよ……なぁ、何で笑わねぇんだよ……!いつもは笑ってるじゃねぇか!」

彼は叫びながら俺の肩を掴み揺さぶった。視界が揺れる。彼の目からはボロボロと涙が流れていた。そんなに泣いたら目が赤くなる。拭ってあげたかったけど、俺にはそれができなかった。頭を抱えながら彼は俺の足元にうずくまる。俺はただ、その姿を見ているだけ。

「そ、そんな目で、俺を見るな……!」

彼には俺の目が気に入らなかったらしい。生まれてから、一度も彼以外を映したことのない目が。
俺の首に手をかけるとギリギリと絞めてきた。絞められているのは俺なのに、絞めているはずの彼の方が苦しそうだ。俺はただそれを受け入れる。彼がそうしたいならそうすればいい。
しばらくするとずいぶん正気に戻ったらしくて、俺の身体にすがり付いてまた泣いていた。

「ご、ごめんな臨也。痛かったよな?お前は悪くないのに……新羅のやつが変なこと言うからだ……もう今日は風呂入ったらすぐに寝ような……」

倒れたまま起き上がれない俺をシズちゃんは抱えた。その手は優しくて、時折鼻をすする音が聞こえた。
ごめんね。俺は泣いてるシズちゃんを慰めることも、抱き締めることもできないんだ。
こんな作り物の身体じゃ、与えられた愛を返すこともできない。





















最初から臨也が人形だったって話です。人形相手に話しかけて世話をしていたシズちゃん。
いつか気持ちに答えてくれると信じて。

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