小説 | ナノ
甘くて溶けそう


ハロウィン!誰が何て言おうとハロウィン!つがサイ版の後に読むと分かりやすいかも。











彼に季節感はあるのだろうか。年中同じ服を来ていれば衣替えもなく、何となく寒くなったなぁ程度だろう。痛みはともかく温度に対する適応はどうなっているのだろうか。寒い冬でも変わらず子ども体温で温かいことは確かだ。

季節の行事と言えば、バレンタインのときにチョコを渡したことがある。あれはなかなかに気恥ずかしいものだった。にも関わらず、彼にバレンタインだなんて認識はなかった。ただ珍しく俺が見返りも求めず物を寄越すものだから、怪しんでいたらしい。失礼にも程がある。
そんなわけでハロウィンだなんて、ある意味一番印象のないイベントをシズちゃんは知っているのだろうか。

俺は特に仮装をするわけでもなく、ただソファに座りテレビを見ている彼の背中に独り言のように呟いた。

「……トリックオアトリート」
「……あ?」

一応控えめに言ったつもりだったが、どうやら聞こえたらしい。案の定シズちゃんは意味が分からないという顔をしている。元からそれを前提に言った言葉だ。期待はしていなかった。

「……ごめん、何でもない。ちょっと仕事のこと考えてただけ」

言い訳が下手すぎるだろうと自分でも思った。シズちゃんはしばらく考えると、ポケットの中から何か取り出した。色とりどりのそれは、買ったのか貰ったのか。それを一つ選ぶと中身を口に含んだ。
そのまま立ち上がると、書類片手に立ち尽くしていた俺の前まで来た。頬に添えてきた手は何故か冷たくて、どうしたのかと問おうとすれば口付けられていた。お互いの歯に固い砂糖の塊がぶつかる。流し込まれる唾液はほどよく甘かった。

シズちゃんの手に握られた見覚えのある飴。同じ包み紙がゴミ箱には捨てられていた。
息苦しくなって服を引っ張れば、最後に唇を舐めて彼は離れていった。

「……誰かに何か言われた?」
「……いや別に」
「……そう」

目が泳いでいるうえに、髪を掻いている。これはシズちゃんが嘘をつくときの癖だ。どこまでも嘘をつくのが下手なやつ。そこが意外に可愛くて好きなのだけど。

「……うまいか?」
「甘過ぎ。コーヒー飲みたい」
「俺は苦いの嫌いなんだよ」
「……だから?」
「……俺が気ぃ済むまで飲むな」
「はいはい」

俺がコーヒーを飲んだあとはしばらくキスができなくなるから嫌だそうだ。その後シズちゃんからもトリックオアトリートと言われた。聞けばちゃんと意味を知っているらしい。

もちろん俺はお菓子を持っていた。それでもシズちゃんの首に腕を絡めながら、耳元でいたずらされたいと熱っぽく囁いた。












加糖。いたずらされたいとか変態か変態ですね。

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