ハロウィンネタと言い張る。 「とり……とりっくおあとりーと!」 本をめくる手を止め後ろを振り返ると、頭にヘッドフォンの代わりに何か動物の耳を着けたサイケがいた。尻尾はないが、あったなら凄い勢いで振っていただろう。それくらい目を輝かせていた。 俺が首を傾げながらも頭をいい子いい子と撫でると、一瞬ふにゃりと笑ってすぐに俺の手を振り払ってきた。どうやら褒めて欲しいわけではないらしい。 「おかしをくれなきゃ、いたずらしちゃうから!」 「……」 「いひゃひゃ!いひゃいひょ!ひゃにゃひふぇ!」 とりあえず可愛かったから頬っぺたを摘まんで左右に引っ張っておく。少し赤くなった頬を擦りながら、サイケは自慢気に胸を張って話始めた。 「いざやくんがね、きょうはおかしをもらうひだって!おかしがなかったらいたずらしていいんだよ?」 そういえばそんな行事があった気がする。最近そわそわとカレンダーを見ていたのはこれのせいか。この耳は一応仮装みたいだ。 「ほら、飴やるよ」 サイケがいつでも食べれるようにと持ち歩いている飴を懐から出すと、見るからに残念そうな顔をした。お菓子よりもイタズラがしたかったらしい。 頬をぷっくりと膨らませながらも飴に手を伸ばしてきた。すかさず腕を挙げる。俺の方が背が高くてサイケは背伸びをしても届かない。 「ちょ、ちょーだい!いたずらできないなら、あめちょーだい!」 包みを広げて中身を口に含むと、肩の辺りをポカポカと叩かれた。 「お、おれのあめなのにぃ!」 こんなことで半泣きにならなくてもいいだろうと思いつつ、サイケの頬を両手で掴んで口付けた。驚いた顔をしながらも逃げずに受け入れるのは、毎日朝と夜に必ずキスすることを習慣付けた結果か。 唇の隙間から少し溶けかけている飴を押し込んで、しばらく二人で舐め合った。味はいちごだったようで、なかなかおいしかった。 「ふ、あ……はぅ……」 「……はい、お菓子」 顔を真っ赤にしながらうつ向くサイケが可愛くて抱き締めたら、すぐに背中に腕を回してきた。耳まで真っ赤にしながらも小さな声でおいしいと呟く。 「サイケ」 「ん……なぁに?」 「トリックオアトリート」 「あぅ……」 どうやら俺から言われるとは思っていなかったらしい。サイケはうんうんと悩んで、俺がさっきしたみたいにサイケは頬に手を添えてきた。 僅かに開いた唇からは、赤い色をした飴が見える。目を瞑りながら背伸びをしてくるサイケに合わせるように、俺も目を閉じてしゃがんだ。 すると触れたのはサイケの唇ではなく、無機質な文字の並ぶ書類だった。 「……そういうの、他人の家でしないでくれるかな?」 「「……あ」」 そこには仕事中でイライラしている臨也さんがいて、すぐにここが自分たちの家ではないことを思い出した。 それから怒った臨也さんにもう少し節度を持った付き合いをしろと説教され、しまいには俺だってシズちゃんとラブラブしたいと泣きつかれ、サイケと必死に宥めることになった 。 そんな、俺とサイケの初めてのハロウィン。 砂糖吐く。うちのつがサイは基本バカップル。 |