(総司視点/ちょっと本編構造)




―あの池田屋事件から一月経った頃、元治元年7月19日。

屯所の内部は殆どの者達が長州藩への戦いに備えて京都御所に向け出発してしまい、出払ってしまっていた。


そんな中。
藤堂平助、沖田総司は池田屋での怪我の事もあり屯所待機を土方に命じられていたのだった。

沖田は怪我を負った訳ではないが、血を吐いて昏倒してからまだ一月しか経っていない。

それに加えて軽く咳もしていた為か、土方からまだ安静にしていなくちゃ駄目だという命により今現在縁側にて暇を持て余している。


(いくらあの時倒れたからって…薬も飲んで今は動けるし、咳だって軽く出てるだけなのに。
……土方さんってば本当過保護すぎる)

はあ、と溜め息を付きながら目線を足下に移しあの時の出来事を巡らす。
月明かりに照らされ、さらさらと揺れる金色の髪に紅い瞳をしたあの男。


―強い。
幹部の中でも1、2番を争うほど強いとさえ言われている自分でさえかなわなかった、それは比較にならない程に。

――それに。

あの男は何故…急に近づいて頬を撫でてきたんだろう。
―ほんの少しだけアイツの姿に見入ってしまった自分が悔しい。


(この僕が負けるなんて……次こそは――)

そんな事を考えているとふと、柔らかな風が吹いてサラサラと髪が揺れる。
と、同時に足元を暗くする自分のではない別の影。


「…やはり屯所(ここ)は手薄か」

「……!!」

聞き覚えのあるその声にバッと声をした方向を上げる。
思わず立ち上がり反射的に左腰に手を伸ばしたが、帯刀していない事に気付きチッと舌打ちする。
屯所に居るからとつい安心して外してしまっていた。

―まさか……現れるとは。

「屯所(ここ)だからと油断していたか。……まあそう睨むな。
今日は別に刀を交える為に来た訳ではない」

「は………?」


一体どういう事だ。
屯所を狙うなら土方さんも近藤さんも居ない、隊士が手薄な今が好機だろう。
なのにこの男はその為に来た訳ではないという。
張り詰めていた緊張が思わず弛む。


「じゃあ、何の…用」

そう告げると紅い瞳を細めニヤリと口元を歪める。

「…お前に会いに来てやった…と言ったら、どうする」

「…え」
(…な、何を言っている?来た目的が……僕?)

「…誰も来て欲しい、なんて…頼んでないんだけど」

「……そういえば、お前に己の名を名乗っていなかったな」

「…ちょっと」
「風間千景」

「は…?」
「風間、千景という名だ。せいぜい覚えておくがいい」

「かざま……ちかげ…?」

なぞる様にそう呟くと風間は僅かに目を丸くさせたが、直ぐ元の表情に戻る。
一瞬だけ見せたその姿に沖田は少しばかり動揺する。

どうして、自分が相手の名を呟いただけでそんな表情をしたのだろうか…。



――まるであの夜の出来事みたいだ。
ただあの時とひとつだけ違うのは陽が完全に沈み、辺りを覆う暗闇ではないという事。

「さて…用件は済んだ。
次は彼方(むこう)の一興でも見に行くとでもするか。……沖田総司また会いに来てやろう」


くるりと身を翻したと思ったらいきなり強い風が吹いて思わず目を瞑ってしまう。
しまったと思い、急いで目を開けたが其処に風間の姿はなく。


「…………」

「な、なんなわけ……。」

縁側に再びドスンと座り直す。

だからそんな事頼んでないって言ってるのに…とぽつりと呟いた言葉は、気配がなくなった庭先に吹いてきた風によって虚しく流されていくのだった。



***


てなわけで。
次はちー様出てきませ……ん(=゜-゜)

総司視点で進みます。

人の話をある程度無視しつつも自分の行動には直球的…それがちー様かなあと思います^^^^
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2012.2/4

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