いつの間にか心の隅まで黒く支配されて気付いたら戻れない所まで。
交わした約束は砂の様にさらさらと溢れ落ちて。

…………手に残ったのは空虚。





***


「………っは、はあ」

もう、何度目だろうか。

薄暗い時間帯に必ず胸を抉られるような息苦しさで目が覚める。

額には汗が滲み出て呼吸は荒く、泣いていたのか瞳からは涙が溢れ出ている。

こんな時は言い表しようのない感情に苛まれてしまう。

訳もなく泣き叫びたい衝動に駆られる。
哀しくなど、ないのに。

高校に入学してからというものの毎晩ではないがこんな日常が続いていた。

夢の内容など一切覚えてなんていない。
けれどいつも赤いイメージだけは脳裏に焼き付いたままで。

―まるであの先生の髪の色の様な。





担任の先生が、居る。

いや普通は担任の先生が居ない方がおかしいけれど。

………そうじゃなくて。

授業中でもそうじゃない時も、視線を感じる時がある。
ふと先生を見ても他の生徒と楽しく会話をしていてこちらを見てる訳でもない。

授業中に目が合うことも当然ながら無くて。

気のせいかもしれない、気のせいなのかもしれないけれど……時々視線が鋭く突き刺す様な感覚の時があって。

それは決まって友人だったり誰かと会話をしている時だった。


そして。
ほぼ毎日魘されるお陰で寝不足な日々が続き、今日もダルさは最悪だった。

(………駄目だ、眠い)

天気が良い日は屋上で。

天気が悪い日は保健室に行き、ほぼ毎日二時間程授業をサボってその間仮眠をとるという日課を送っていた。

天気が良いので今日は屋上でごろりと仰向けになり、手を頭の下に置いて目を瞑る。
そよそよと吹く風が心地よくだんだんと眠気が襲ってきて、これなら気持ち良く寝れるかもしれないと。


(――………)

赤色の髪をした男の人が僕の髪を撫でる。

――左之さん。


「……っ」

バッと弾かれたように目を開ける。
(何で原田先生の下の名前なんか―…)
仰向けのまま周りを見渡しても本人は、居ない。

…今のは何だったんだろう。
やっと気持ち良く寝れると思ったのに。


せめて目を瞑ってれば多少は違うかも、と再び目を閉じた。

――………。

遠くでチャイムの音が鳴り響く。
それから暫くしてガチャリとドアの開く音。


自分を誰かが見ている。

覚えのある視線だった。
それは頭から足の先まで何かを確かめるかのようにじっくりと。

「………何、見てるんですか」
耐えきれなくなって思わず呟き、目を開ける。

(原田……先生)

「何ってな……お前、また授業サボってるから探しに来たんだよ」

呟いた言葉に原田先生は苦笑いを浮かべながら答えてくれた。

「へーえ」

「へーえ、て沖田な……他教科の小テストやら大事なプリントとか。他の教師から預かってるから放課後俺んとこ来いよ」

(……げ、)

「ええええー」


「えーじゃねえよ…いいか、ちゃんと来いよ」

「はあ………分かりましたよ」

「とりあえず次の授業から出ろ、じゃないと夏は確実に赤点で補習だからな」

「む………」

「沖田行くぞ………ほら」

そう言うと、スッと手を差し出された。

「…………」

今一瞬原田先生の姿が別の人に見えた。
……いや顔も髪の色も目の色も原田先生にそっくりだったけれど……。

「え、何……ですか」

「何って…次の授業出ろって今言ったばかりだろ、行くぞ」

「ああ、そうでしたね」

先生の手を握るとグイッと引っ張られ立ち上がらせられ、互いの顔の距離が近くなる。


前から思ってたけど…凄く綺麗な、顔。
吸い込まれそうな黄金色の瞳。

そんな先生の瞳が一瞬だけ、ほんの一瞬だけぎらりと垣間見えた様な気がした。



***


放課後沖田はプリントを受け取る為に教官室へとやって来た。

サボってるとはいえさすがに単位を落として留年でもしたらシャレにならない。


とりあえずそこのソファに座っててくれないかと言われたので言われた通りにぽすんと座り、ガサガサと机でプリントを纏めている先生の姿をぼんやり眺めていた。


「……ほら。
次からはちゃんと真面目に授業受けるんだぞ……ずっとこんなんだと俺は面倒見きれねえぞ」


「………僕だってちゃんと真面目に授業受けたいです、けど。
ほぼ毎晩魘されて朝方目が覚めてそれからは殆ど寝付けなくて……あんまり眠れてないからどうしても集中出来なくて」

「……魘される?何に」

「よく………分からないですけど…。
いつも覚えてないんです、だけど赤のイメージだけはいつも残ってて……」

「赤……だって?」

途端に原田の目の色が変わる。

「さっきも眠ってたら誰かが髪を撫でてて左之さんって言ってて……一瞬だけ見た夢だったんですけど」


そう説明したら目が細められ、黙り込んでしまった。

―原田先生が見ている。


(何だろう………先生の様子が少しいつもと違う気がする)

―……恐い。


「……てベラベラ喋ってすみませんでした。次からはちゃんと出ますから、失礼しま――」


何だか気まずくてさっさと帰りたい気持ちになり、立ち上がって出入口に向かおうとした、刹那。

ドンッと壁に思い切り押さえ込まれ、持っていたカバンがどさりと音を立て落ちた。

「い………っ…せ、先生…?」

「……んで、断片的に感じ取ってたりするんだ……完璧に忘れさられるならいっそその方が楽だったのに」


「え……なに、言って………」


「……………ごめんな、ずっと教師として接していきたかったけど……もう壊れそうなんだよ」

哀しそうに笑うその姿。

「……総司」

先生の顔が近づく。
頬を撫でながら沖田を見つめるその瞳。

原田先生が見ている。
笑っているのに…笑っていない先生の、瞳。


―突き刺す様な視線だった。



くちゅりと舌を捻り込まれる。
そこで漸くキスをされている事に気付いた。

「ん……!?」

壁を背にしているから身動きが出来ず、もがいても原田が力一杯頭上で両手首を押さえ付けているからかビクともしない。

「ん、ん……ふ、ぅ」


必死に舌から逃れようと引っ込めるが、強引に絡め取られる。

どれくらい経っただろうか。

口内を散々舌で掻き回された後漸く唇は離れ銀色の糸が互いの舌と舌を繋ぎ、やがてぷつ…と途切れた。

「んっ……あ…は、はあ……は…」

身体の力が抜けて脚がカタカタ震えている。

酸素を求めて身体に空気を取り入れていると、原田は片手で器用にスルリとネクタイを外しワイシャツのボタンを外して前をガバリと開けた。


「………っ!?」


恐怖で声も出なかった。

(ど、ど………どうし、て)

訳が分からない。
何で先生が急に態度がガラリと変わったのか。
あの優しい世話焼きな先生が。

今は目を細めて口元を三日月の様に歪めて笑って、いる。


この後どうなるか…その展開が分かってしまって、ただただ恐怖に身を固くする事しか出来なかった。





***


温い裏どころかぬるぬる(何か卑猥/笑)じゃないか……!!というね。
ぶったぎりました、はい。

入れなくても割と長めになっちゃったのに、入れたらどんだけよ……!てなるので思い切って。
最早短文ではない←
沖田さんが好きすぎてついに歪んでしまった原田さんでした^^;

後編ではありますが。
何かその後とか書いた方がいいのかな?要望なんぞありましたら考えます(´ー`)


文章変な気がしないでもないけども…また時間ある時にでも直しに来ます。
とりあえずこのまま投下(笑)

2012.5/9


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