少しばかり汗ばむ初夏の季節、そんな朝餉の風景である。
もちろん幹部達全員揃わねばありつけない。
永倉新八が広間に来た頃には殆ど全員が揃っていて、あと一人だけ待つのみとなった。
……そう、あと一人。
「……たく、総司の奴はまだ来ねえのか?ご飯が冷めちまうだろうが」
沖田総司は朝が弱い。
だから朝餉に遅れて来るのも度々あった…が、今日は少しばかり遅い様な気がする。ちょっと気になるが……。
「…おい、誰か総司を起こして来い」
はあ、と土方が溜め息を付きながら誰かに連れてこいと呟く。
「新八、お前が広間の出入口に近いからお前が行ってこい」
「はあああ?土方さん、俺がか?」
「いいから行ってこい」
そんな勝手な。
……まあ本音、気になっていたのは事実だ。
実際俺は総司は男ではあるが、総司への想いを抱えている。
友人として接する間柄とかじゃなく添い遂げたい、そんな意味で。
「ったく……しょうがねえな、分かったよ」
そう言い立ち上がると広間を後にして、総司の寝床にしている部屋へと向かった。
「…………」
そんな姿をじっくりと見ていた男がもう一人。
(あいつ、本当分かりやすいというか……何というか)
言葉と表情ではやれやれといったような顔をして向かって行ったが、想う相手を心配するような…そんな顔を一瞬だけ覗かせた。
そんな自分――原田も永倉と同様沖田の事を好いている。
(俺も後で総司の所行ってみるか)
そう思い、原田は目の前にある冷めかけた茶を手に付けた。
***
ギシギシと縁側の板が音をたてる。
身長だけはいっちょまえに肩幅も自分よりあるくせに、全体的に細身でちょっとした事で体調を崩すのも少なくない。
…もし具合を悪くしていたら。
そんな考えが脳裏にふと過ると永倉はいてもたってもいられず、早足で歩く。
沖田の自室に着くや否や。
「おい総司、起きてるか?朝餉の時間だぜ」
「え、新八……さん?」
「土方さんが呼んでこいって言われてな。…いいか、障子開けるからな」
「え、あ……ちょっとま」
制止しようとしたそんな沖田の声に気付かずに永倉は思い切り障子をガタッと開いた。
「…………」
「……………」
寝間着を片袖だけ羽織り、帯も外した姿の後ろ姿の沖田。
どうやら着替え中だったようだ。
「……っ」
「はあ…待ってって今言ったのに、聞こえなかったんですか」
「あ、す……すまんっいつもより遅いからてっきり体調悪いのかと思ってだな…」
「いえ……大丈夫ですから。
今、着替えるんで障子を閉めてもらっていいですか?ついでに後ろ向いてて下さい」
「お、おう」
まじまじと沖田の身体を見つめていた永倉はビクッとしてしまう。
(…見るなって方が無理な話だよな)
ましてや想っている相手なのだ。
まあ……当の本人はその様な目で見ていたなどと露程にも思ってないだろうが。
パタンと閉め、背を向けドスンと胡座をかいて座り目を瞑る。
目に焼き付いた先程の沖田の姿。
ほどよく付いた筋肉に黒くもなく白くもない健康的な肌。
栗色で柔らかそうな髪。
すらりと伸びた脚。
何もかもが焼き付いてしまってどうしようもなく抱き締めたい衝動に駆られたが、恋仲という訳でもないのでそういう訳にはいかない。
パサリと寝間着を落とす音。
いつも着ている着物にスススッと通す音。
「……!!」
(くそ……保て、自分。)
そう頭の中で言い聞かせ、目を思い切り瞑り膝に肘を付き手のひらに顎を乗せ必死に耐える。
……と、そんな時である。
「おーい、お前らちょっとばかり遅いから見に来たんだが……開けてもいいか?」
「えっ……左之さ……」
「え、まだそんなに経ってねえ……」
だろうが、と続けようとしたがガタッと障子を開けられて思い切り原田と目がかち合う。
「「「……………」」」
三人の沈黙。
本日ニ度目の光景である。
かろうじて沖田は袴を穿き、着物に帯を締める所だったので原田にも肌を晒すのは逃れた、が。
「あ…総司悪かったな、遅かったから気になってつい、な」
「……いえ、心配させたならすみませんでした…体調なら問題ないですから」
「そっか、なら良かった……なら俺は戻るかな」
そんなやり取りの中原田をちらりと見やると原田も視線に気付いたのか永倉の方を見、ニヤリと口角が上に上がる。
(――絶対に態とだな…)
鈍い俺でも分かる。
もしかしたら原田も総司の事を好いているのではないか?
「待て左之、俺も行くわ」
いてもたってもいられず戻ろうとした原田を呼び止める。
「…………」
「んじゃ俺らは先に戻るからよ、早く来いな」
「はあ……」
原田の肩に腕を掛け、二人は立ち去る。
沖田は走馬灯のような出来事に頭が追い付かず、二人の姿を呆気にとられたように見つめていた。
広間に戻る途中。
「……お前、総司の事…好き、なのか?」
と新八が自分に聞いてきたので、完全に恋沙汰には鈍いと思っていたから正直驚いた。
(少なからず鈍くないって事か)
「ああ、お前と一緒だよ」
そう言うと黙り込みこちらを見据えながら真剣な目で。
「…抜け駆けは許さねえからな」
「お前こそ抜け駆けするんじゃねえぞ」
「……上等だ」
と……言った所で、原田の頭の中でとある考えが浮かんだ。
………本来なら一対一の方が良いに決まってるのだが。
「……なあ」
「何だよ」
「今ふと思い付いたんだが……こんな案はどうだ?」
「は……?」
「――……………」
「……どうだ?」
「ま、まあ……悪くねえ、けど」
「なら、決まりだな」
二人の中で決めた約束。
……それは二人の心中のみぞ、知る。
***
その日の夕刻。
沖田は夕餉を済ませ、自室に向かっていた。
夜風が頬をふわりと撫でる。
(そういえば…朝は何だったんだろう)
新八さんは顔を赤くしながらじろじろ見てくるし、左之さんも急に現れたかと思えば二人でさっさかと広間に帰っていくし。
……本当何なんだろう。
はあ……と溜め息を付きながらカタッと自室の障子を開けて入った瞬間。
肩を思い切り下に押されて、沖田は受け身もとれずに畳に背中を打ち付ける。
「痛……っ」
(…………え、なに…?)
背中には畳、目線の先は天井と……
「さ……左之さ………ん?」
状況が上手く呑み込めず、戸惑うような声をあげれば原田がふと笑みを浮かべる。
月明かりに照らされた原田がとても綺麗で思わず見入ってしまう。
「急に押し倒して悪かったな。
二人でそう決めた以上実行に移すのは早い方がいいと思ってな」
「え、ふた……り?」
実行に移すって……どういう意味…?
意味が分からず原田に問い掛ける途中。
原田の顔が近づいたかと思えば、沖田の唇に原田のモノが合わさる。
「ん…………っ?!」
クチュリと舌を入れながら角度を変える度に静かな室内に鳴り響く。
「ん、んん……ふぅ、んっ」
舌を絡め取られ舌を吸われ…そして口内を舐め、犯される。
「ふあ……ん、んん」
鼻に抜ける自分の声が恥ずかしくて原田の胸をドンドンと叩けば、漸く離してくれた。
二人の間に銀色の糸が繋がり、そしてぷつ、と切れた。
はあはあと息を荒くしながら沖田は涙目で原田を見つめる。
「……こんな事されればいくら総司でも分かっただろ?」
「…………!」
「左之、抜け駆けはナシだって言ったじゃねえか」
突然聞こえたもう一人の声の主に沖田は目を見開く。
「新八……さん?」
障子を背に新八は自室の中に胡座をかいてこちらを一部始終を見ていた。
いつの間に来たのだろうか。
「悪い悪い、一番最初に味わいたかったんだよ」
「もしかして、もう一人って………」
沖田が呟けば原田が微笑む。
「そうだ、もう一人ってのは新八の事だ」
シュルリと着物の帯を抜き去る。
「……な、」
「俺も新八もお前の事が好きで、可愛くて仕方ないんだよ」
「……っ」
ドクンッと鼓動が高鳴る。
(好き……?僕を?)
「総司は好きな奴居たりするのか?もし、居たりするなら潔く諦める。
居ないなら……俺達と付き合ってみないか」
「左之さ………ん」
実際なら一対一で想い合ってる同士が一番なんだけどな。と呟きながら原田が微笑う。
「…………」
―確かにそうなんだろう。
男同士だというのにそう言われても嫌悪感は感じない。
寧ろ――。
「い……ないです」
「いいんだな?いいって言えばもう戻れないぞ?」
「……二人の事…嫌いじゃない、ですから」
そう答えればじゃあ決まりだな、と髪をさらりと撫で。
「互いに総司の事が好きなら抜け駆けせずに平等に愛そうって二人で決めたんだよ……だから」
「「二人で平等にたっぷりと愛してやるからな」」
「……っ」
突然の二人の告白に戸惑った沖田だったが優しく微笑む二人を見ているうちに溺れてみたい、と思った。
それに猛獣な瞳を含ませた二人からはもう逃げられないと思ったのだ。
手を取ったらもう、逃れられない。
覚悟しとけよ……と着物の中をまさぐられ、広げられ。
三人のこれからの夜が始まった。
…まだ夜は始まったばかりである。
***
時間が掛かったああああ……割には文章が訳分からんですよ!!!
グダグダグダですみません(泣)
またその内修正しにやって来ます(- -;)
三人視点?は難しいです、慣れない事はするもんじゃないですね;;
原沖でとか永沖で、の話とかあった方がいいのかな……うーん。
お読み頂き有り難うございました!!
2012.07/09