夢の中で誰かが誰かと会話している。


誰かと誰か。
そのうちの一人はどうやら自分のようだ。
目線の先の燃えるような赤い髪がサラサラと揺れている。
その人は自分の髪を指に滑り込ませながら柔らかく微笑んでいた。


色んな感情が渦巻く。

楽しい、嬉しい、苦しい、
……切ない。

「…………っ」

バッと弾かれたように目が覚める。
心臓がバクバクと音を立てて、額にはうっすらと汗を滲ませていた。

(………最悪だ)

吐き気と頭痛、あと少しだけ目眩もする。
普段大きく体調を崩すという事はないのに毎年5月になると途端に不調になる。
その中でも30日頃は5月の不調の中でも一番酷いものだった。

それが、今日。

しかしだからといって学校を休むっていう訳にもいかないので、吐き気と頭痛を必死に堪えながらゆっくりと制服に着替え始めた。

***


本来なら学校を休んで家で休養を取るべきだが、一人暮らしの身にとっては特に今日は独りぼっちで部屋には居たくなかった。

――あの人に逢いたい。


ふらふらと何とか教室まで辿り着き、自分の席に座ると前の席に居る斎藤一から声を掛けられた。

「…総司顔色悪そうだが……大丈夫か、顔真っ青だぞ」

「…ああ、斎藤くんか…うん………」

大丈夫だよ、と言うと険しい表情に変わる。

「そうか………今日は」
ぽつりと呟いた言葉には沖田には聞こえない。

「大丈夫な状態に見えるわけがないだろう、担任に理由を言っておくから保健室に行って休め」

「…うわあ、折角ちゃんと遅刻しないで来たのに」

「本気で具合が悪いなら話は別だ、普段具合悪くない時こそちゃんと来る努力をしろ」

「…………努力は、する」

「何だ今の間は」

はあ…と溜め息を吐くと、沖田の手首を引っ張って立たせて保健室へと向かった。


保健室に着くと保険医の山南さんは職員室に居るのか留守で中には誰にもいなかった。

斎藤は沖田から症状を聞くと棚からガサコソと取り出している。
その光景をベッドの上に座りながらぼーっと眺めていた。

頭がズキズキと音をたてるように痛い。

(何で僕は、いつも)

こう、役立たず、なんだろうか。

―あの頃も何の役にも立てないで―


「総司頭痛薬と水を持ってきた。とりあえず飲めばある程度は違うだろうから、飲んだら横たわって休むといい」

「………うん」

(薬嫌いだなあ……でも少しでも和らぐなら飲まなくちゃ)

頭痛薬と水の入ったコップを受け取り気持ち悪いのを堪えながら勢いで飲み干す。

ぐらり、と大きな目眩が襲う。
「…………っ」

「…総司?」

「……っあ、…りがとはじめ、く…ケホッ」
「総司……!?」

「……ごめん斎藤くん、薬飲んだら少しだけ楽になった…ありがと」

「あ、ああ」

「横になって休んでるから、斎藤くんは教室に戻っていいよ」

パタンと閉めて斎藤くんが出ていくのを確認すると布団にもぐる。

意識がぐらぐらと揺れて薬のせいか睡魔が沖田を襲う。

(寝れば、良くなる、かも)

目を瞑ればいとも容易く夢の中へと吸い込まれていった。

***


ふわふわとした空間。
周りを見渡せども見渡せども薄い靄が掛かっていて確認が出来ない。

(ここ、何処だろう)

確か寝ていた筈だったけれど…。
周りには何にも無いし誰も居なかった筈だったが、何処からともなく声が聞こえてくる。


「現代(いま)の僕は随分と弱っちくなったもんだね」

「……っえ」
振り返れば其処に居るのは――


(――僕?)

顔立ちは僕そのものだ。
ただ違うのは髪が少し長いのと、着物を身に纏っている事だけ。

「君は……誰?」

「僕は君、だよ」
「……僕?」

「……そう。
僕は志半ばで息絶えてしまった。だから代わりに僕の分まで永く生きて、そして幸せに…なって」

「……っ」

哀しい表情で微笑う。
「僕の魂は君の中に常に共に在り続けるから。くたばったら承知しないからね」

「え、あ……と」

「あ、それと……」
「…?」

("  "さんに宜しくね――)

「た、……沖田っ」
(遠くで聞き慣れた声が聞こえる――)


「……う、ん」

「大丈夫か?随分と魘されてたぞ。
斎藤から沖田が学校に来たけど具合悪いようだったから保健室で休んでるって聞いてよ」

「あれ、左之さ………ん」
「………っ」

「大丈夫です、斎藤くんから頭痛薬貰って飲んで寝ていたお陰か大分楽になりました。原田先生に心配かけてすみませんでした」

と言いつつ起き上がろうとするとやんわり制止されてしまう。

「寝てろ、次の授業まではあと一時間は空きがあるから一緒に居てやるよ」

手を握られながらふわりと優しげに微笑うその姿にドクンと胸が高鳴る。

「え、あ……りがとうございます」

ふわりとまた眠気が誘う。

「すみませ………眠くて」

「構わないから、ゆっくり休んでろ」

「ん………」
再び夢の中へと吸い込まれていったようだ。

「左之さん、か………久々に呼ばれたな」

もう片方の手で栗色の髪を撫でながら額に触れるだけのキスをした。


もう、頭痛や吐き気はいつの間にか消え去っていた。



***


てなわけで原沖で沖田追悼話でした。
掲載遅くなってしまった………(汗)

ていうか原………沖?というより原→←沖っぽい気がするよ。
久々に書いたのでグダグダ文が余計にグダグダグダしてなくもないですけど。

読んで下さり有り難うございましたー!


2012.06/01
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