おめでとうの気持ちをあなたに
(いち)
体全体でリズムを刻みながら、小さな少女は土の塊を一枚の板に乗せていた。
何をしてるんだろう?
そう思った僕は、その背中に声をかけた。
「涼子ちゃん」
「あっ、イトーサン」
こんにちはぁ!と楽しそうに笑った少女は、ぺこりと身体をふたつに折った。腕も脚も土だらけに汚して、心なしか着物にも砂がついている。
払ってやろうと近付けば、涼子ちゃんは何かに気が付いて板と土の山を身体の後ろに隠した。そして話をはぐらかすかのように言う。
「にゃ、にゃんこはげんき?」
「ああ、元気だよ。 それよりほら、服も汚れてるからこっちに…」
「だいじょうぶっ、じぶんで できるよ」
「…」
その塊が何なのかわからないけれど、どうやら僕には見せられない物らしい。
そういう事なら、深く介入するのは止してやろう。
後ろ手に隠しつつ、けれどほぼほぼ隠れていないそれを、僕は気に留めない事にした。
「…じゃあ、もう日が短いのだから早く部屋に戻りなよ」
「ひがみじかい?」
「太陽が沈むのが早いという事だよ。冬はすぐに暗くなるだろう?」
「うん、くらくなる! …あっ、イトーサン、おしごと なんじにおわる?」
「え…、六時頃には終わると思うけど」
「ろくじ? とけいのみじかいはりが ろくになったら、よるごはん のじかんだから、それより まえのほうがいいな」
キラキラとした目でアピールする少女に気圧されて、夕飯よりも前の時間を提案する。
夕飯に向かう前に涼子ちゃんの部屋に迎えに行くと言えば、涼子ちゃんは顔を綻ばせた。
「えへへ、まってる! じゃあたのしみに しててね!」
そう言った少女は、隠していた土山に向き合うようにしゃがんだ。
夕方になって、仕事を早めに終わらせて小さな約束を果たそうと部屋に寄れば、彼女は部屋ではなく薄暗い庭先に居た。
「涼子ちゃん、まだそんな所にいたのかい? もう遅いのだから、いつまでも庭にいたら身体が冷えてしまうよ」
「あれ?もう よるごはんのじかんなの?」
「ほら、おいで」
「まって、あのね、これ!」
涼子ちゃん用に新たに設えたらしい沓脱石から縁側へ登ってきた少女は、僕の目の前に元気よく手に持っていた板と土の塊をこちらに見せた。
「あのね!イトーサン! これ!みて!けーき!」
「ケーキ?」
「おたんじょうび、おめでとう!」
そう言って眩しい笑顔を見せた涼子ちゃん。
少女の言動に驚かされた僕は、ただただ目を瞬かせる他なかった。
happy happy ...!!(…涼子ちゃん、明日一緒に本物のケーキを食べに行こうか)
(ほんと? わたし、けーきすきだからうれしい!)
鴨太郎、誕生日おめでとう!
生まれてきてくれて有難う!
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