空は翳りて星光る(いち)




さらさらと鳴る葉っぱの音に、少女は耳を傾ける。そっと名前を呼べば、首をもたげて破顔した。


「にぃに、はっぱがきらきらっていってる!」

「よかったね、涼子」


にぃにと呼ばれた山崎は、涼子の頭を撫でて笑った。
いつも通っているスーパーで購入した笹の葉を手に持った涼子しようは、葉っぱ達が揺れて音を奏でるのが楽しくて仕方がないらしい。元気よく上下に揺すっては、嬉しそうな声をあげている。

その笹の葉は、七夕が近いから用意したらいいと近藤に言われた品だ。
七夕をわかっているのかいないのか、涼子の足取りは軽く腕の運動も鮮やかである。


「涼子、お願い事は決まってる?」

「おねがいごと? なんでー?」

「えーと…。もうすぐ、七夕だからだよ」

「あっ、たばばた!しってる、おほしさまに『けんこーだいーち』っておねがいするの!」


え、なにソレ。叔父さんどんな願いかけてたの。

そんな事を思いながら、ふと気付く。
叔母である涼子の母親は、確か病で倒れたのだ。だから健康第一と短冊に願いをかけていたのだろう。
そう結論付けて、山崎は涼子の頭を撫でた。


「おとーさんねー、かぜひくの こわいんだって」

「俺も、風邪は怖いなぁ」

「わたしも かぜでこんこんするのきらい!」

「はは、一緒だね」



てくてくと前を歩く少女は、笹を振りながらけんこーだいーち、けんこーだいーち、と繰り返す。
その願いは涼子の物ではなく、彼女の父親の物だろう。彼女自身の願いがあれば、短冊に書くのはそれがいいと思った山崎は、先行く黒髪を追いかけて軽く抱き上げた。



「わあ!びっくりした!」

「ねぇ涼子、健康第一の他にお願い事はない?」

「ほか? えーっとねー、んーと…、あっ!『おだんごがいっぱいたべたい』!」

「お団子は今度買ってきてあげるから、違うのにしようか」



悩む余地もなく意見を却下された涼子は、眉間にシワを寄せて小さく唸る。ぎゅっと目をつぶり首を倒すと、しばらくしてから数回瞬きをした。

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