僕はピエロ
(いち)
「イトーサンっ」
きらきらと笑う少女。
名は、山崎涼子ちゃん。
少女を僕は、ただ眩しいと思う。
「にゃんこ げんき?」
「ああ、元気だよ」
「そっかぁ。じゃあ、イトーサンはげんき?」
「ああ、元気だよ」
猫の心配をした後に僕の事を心配するのはいつもの事。僕を、僕だけを見ていてほしいと願うのは、ワガママだろうか。
五歳児にここまで執着するなんて、正直、前の自分からしたら信じられないのだが、けれどそうだとしたならば、この想いの丈は何処へ流せばイイのだろう。
「…あれ、イトーサンほんとうにげんき…?」
キョトンと、そんな効果音が相応しいだろう表情を浮かべた涼子ちゃん。僕の顔を覗き込むその仕種の可愛さに頬が緩むのを感じながら、そんな自分を叱咤する。
僕は涼子ちゃんに目線を合わせるようにしゃがみ込むと、やんわりと頬を撫で、そして頭を撫でた。
「んぅ、イトーサン…?」
「元気だよ、僕は君がいる限りずっと元気だ」
「わたしがいると、げんき?」
「ああそうだよ。 涼子ちゃんがいてくれれば、猫も僕も元気だよ」
「そっかぁ」
へにゃっと笑う少女の頭から手を離し、僕はそのまま涼子ちゃんの顔を覗いた。
何て可愛らしく笑うのだろう。僕の心を狂わせて惑わせて、そして和ませるその笑顔は今、僕だけに向けられている。
「…、わたし、ずぅっとイトーサンといるよっ」
「そうしてくれると嬉しいな」
「いってらっしゃいも、おかえりなさいも、ちゃんといってあげるからね」
「ああ、そうしてくれるかい?」
「うんっ、だからイトーサン」
そこまで言うと、涼子ちゃんは不意に哀しそうな表情をした。
それから僕の頬をそっと触れる。
小さな小さな手の平が、僕の頬を滑った。
「だから、イトーサン。 かなしいカオしないで?」
僕は君を想うピエロ(嗚呼、この少女はなんて罪作りなんだろう)
伊東さんは本当にヒロインに依存してます。[ 11/16 ][*prev] [next#]
[back]