年の瀬の恒例行事
(いち)
年末年始ってのは、人間を浮足立たせる。
土方はそうひとりごち、煙草に火を点けた。
この日の屯所の中はとてつもなく騒がしく、それは出動の為だけではなく大掃除の為でもあった。
掃除なんて、と文句を言っていた隊士らも、いざ大掃除に取り掛かればなんだかんだで気張るのだ。
それは五歳児の涼子にも言える事らしく、山崎退と共同で使っている自分の部屋のスペースを丁寧に掃除をしている。
通り掛かった山崎の部屋の前。
バケツの中からびしょびしょの雑巾を取り上げた涼子は、前を横切る土方に向かってあっと声を上げて呼び止めた。
「ヒジカタサン、これぎゅってやって!」
「あぁ?」
「にぃにがね、タタミふくときは かたーくしぼってからって」
「…まぁ、そうだろうな。 で、その『にぃに』は?」
「にぃには、おへやのおそうじおわったから、おにわいった!」
ぱあっと笑って言った涼子に反し、土方は舌打ちをした。庭へ行った、という事は恐らくまたバドミントンなのだろう。
年末年始ってのは人間を浮足立たせる、と言ったものの、山崎に関しては、毎日浮足立っているのかもしれない。
バドミントンかカバディか、それかもしくは涼子に構うかのどれか。
隊務を熟した所で、山崎にはどこかに落ち度がある。
ったくあいつは、と息を吐いて、しかしくるくると目をまぁるくして覗く涼子の姿に土方はまた息を吐いた。
「これ絞れば良いのか?」
「うん、ありがとうヒジカタサンっ」
じゃば、とバケツの中に水が落ちる。
ほれ、と渡された雑巾を受け取り、涼子は畳にそれを広げた。
畳の目に沿って拭く少女の動きを何気なく見て、土方はふっと笑う。
「涼子、掃除が全部終わったらしるこでも食うか」
「おしるこ? 食べるーっ」
そうじガンバルね!と笑う涼子の頭をがしがしと撫でて、土方は山崎二人の部屋を後にした。
年の瀬の恒例行事(ヒジカタサン、おしるこはきいろくないよ……?)
(あ? おしるこ土方スペシャルだ。さあ食うか)
(むー……あんまりおいしくなさそう…)
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