これが、はじまり。
(いち)
「と、いう訳だから、この子をよろしくゥ。」
緊急収集をかけられ、大広間に集まった真選組隊士。そんな彼等に向かって独特の喋り方でそう言ったのは、真選組皆の父親的存在でもある松平片栗虎だった。
松平の隣にはこの場に不似合いな少女が緊張した面持ちで座っている。
目の前にはどよめき立つ男の集団。横には恐持てのオッサン。こんな状況で、齢五つの小さい少女が緊張するなという方が無理である。
少女は正座をしたまま、右へ左へ視線を泳がせた。
それはこの集団の中の何処かに、自分にとって救いになる存在が居る筈だからだ。
「……っ、にぃに!」
やっとお目当ての人を見付け、少女がそう叫ぶ。
にぃにと呼ばれた山崎退はひどく驚いた顔をして、抱き着いてきた少女を軽々と抱き留めた。
松平はその様子に、「そういえばそうだったな」と手招きをする。
少女と松平の間に無理矢理座らされた山崎は、少し困ったように頬を掻いた。
抱き抱えたままでは格好つかないだろうと連れてこられたが、少女の安定剤がわりのこの状態ではどちらにせよ格好つかないと思う。
「や、やまざきりょうこですっ」
けれど知り合いに会えて安心したのか、少女がさっきよりも柔らかい表情を浮かべてそう名乗る。
拙いそれに、山崎が「僕の従姉妹なんです」と付け加えた。
「この子の親は幕府の上の方と関わりがあってなぁ、明日から一年間、宇宙に出張するらしいんだわ。 だからこの屯所で涼子ちゃんを預かる事になりました。はい返事はァ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれとっつぁん! という事は、此処は託児所代わりって事か!?」
近藤が首を横に振った。
何が気に食わないのか、ムリムリ!と繰り返す。
「…とっつぁん、いくらとっつぁんの頼みでも、この屯所はそんなに安全でもないと思うぜ」
「そーだよとっつぁん!トシの言う通りだ、無理だって!」
「無理じゃありませーん。おじさんには解ります、此処なら涼子ちゃんが安全に暮らせるんです」
おじさんのいう事に間違いはなーい。
これまた独特の口調でそういうと、松平は近藤と土方に睨みを利かせた。
「と、いうかぁ。 もしも涼子ちゃんの身に何かあったら、おじさんもお前らもクビが跳ぶんだってば」
有無を言わさないその圧力に、近藤も土方もぐっと息を詰まらせる。
『安全』な屯所に預けたのではなく、何としてでも屯所で『安全』に過ごさせろ、と言うことなのだ。
こうなったらもう、涼子を真選組置かない訳にはいかない。
「よーし。じゃあ涼子ちゃんの事は任せたぞ、近藤」
「了解です……!」
これが、始まり。(よろしくね、涼子ちゃん!)
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