三度目の君は美しく(いち)


公園で桂さんに会ったのは、昨日の事。

それから私は、桂さんに会ってない。


……といっても、家に帰ってから銀ちゃんに私の姓の事を話してからそのままソファーで寝ちゃったんだから、桂さんに会うなんて無理難題な訳だけど。



(昨日の事謝りたいのになー……)


昼下がりにとぼとぼと歩く、屯所から万事屋への帰り道。
私はそう、一人ごちる。


今日はさがるんに別の仕事があったらしく、お昼ご飯を食べたらそのまま帰宅させられたのだ。なんでも、松平のとっつぁんって人に呼ばれた、とか、なんとか。

何だか格好良い呼び方だ、江戸っ子っぽいというかなんというか。うん恰好良い。

(てやんでぃ、べらぼうめ!って感じ?)


まあ、その言葉の意味は知らないんだけど。


「それにしても、とっつぁんって誰だろう……」

とっつぁんの正体はよく解らないのだけど、さがるんが急いで向かったという事は、きっと偉い人なんだろう。


そのとっつぁんの所へ向かうさがるんは、すごく済まなさそうにしていた。寄り道しないでね、なんて、過保護な事も言い出して。
なんだかトキさんみたい、なんて笑ったけど、さがるんはそれでも真面目に、真っ直ぐ帰るようにと念を押した。




でも、私からしたら、早く帰れるのは万々歳だ。

街の探険はもうこりごりだけど、最後に寄った公園という所は何だか居心地がよくて楽しい。
仕事が早く終われば、その公園に居られる時間が増える。

こんなに嬉しい事はない。


(ゴメンねさがるん、小百合は寄り道しちゃいます!)



だって早く万事屋に帰っても、皆居るかわかんないし!



それにきっと、あの公園に行けば桂さんにも会えるだろう。
昨日も居たし、多分今日も居るはずだ。



「うん、きっと居る!」



よし!と握りこぶしを胸の前で握ると、私は公園へと向かう足取りを早めた。





「……えーっと…」

昨日と同じ公園。子供のはしゃぐそこを歩き、昨日と同じ長椅子に腰掛ける。

公園を見渡せるココならば、きっと桂さんを見付けられるだろう。
とは言ったものの、見る限りそれっぽい人は……



「あ!」


遠くに見えた、見覚えのある白い塊。
大きくて不思議な顔をしたそれを見間違う事はないだろう。あれは、明らかにエリちゃんだ。
私は直ぐさまその場から駆け出し、エリちゃんに飛び付いた。



「エリちゃん、こんにちは!」

思い切り抱き着いてからにこりと笑って言えば、エリちゃんも笑ったように身体を傾けて、こんにちはと書かれた立て札を掲げる。
その姿が微笑ましくて、私は目を細めた。



「あ、そうだ。桂さんとエリちゃんは仲良しだよね。 今日は、桂さんと一緒じゃないの?」


その質問にエリちゃんは少し黙って、いや、エリちゃんが黙ってるのはいつもの事だけど、とにかくエリちゃんは考えてから私の後ろを指し示す。
それを不思議に思い振り向こうとすると、急に視界が暗くなった。



「ぬはぁぁぁっ!!!」

「…小百合殿、少しばかし驚き過ぎではないか」

声を聞くに、どうやら目の前に桂さんがいるんだろう。という事は、私の視界を隠しているのは桂さんの笠なのかもしれない。


「うあー、びっくりしたぁぁ……」


私は顔にかけられたそれを取って、前に持ち替えた。
するとやはり、視界を邪魔していた犯人は桂さんの笠だったのだとわかる。



「桂さん、こんにちは!」

笠を差し出しながら元気よく言うと、桂さんはふわりと笑って私の手から笠を受け取った。
そのままそれを被り、また笑う。

初めて見た時にも思ったのだけど、今考えても、桂さんはすごく美人だ。

(さがるんは見てるとふにゃーってなるけど、桂さんは見てるとぽわぽわってなるなぁ)


そう考えながら、私は桂さんを見る。

「小百合殿、もう具合はいいのか?」


桂さんはそんな私を覗きながら、頭を撫でて訊ねた。

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