一緒にいるのが当たり前
(いち)
「新ちゃん、デートしよう!」
私がそう言うと、新ちゃんは不思議そうに首を傾げた。
それもそうだろう。私だって、銀ちゃんに言われた時はキョトンとしてしまったものだ。
「デートってね、こっちの言葉なの。私達に解りやすく言うと、逢い引きの事らしいよ」
「って事は、今俺は小百合から逢い引きの申し出を受けたんだネ」
「そうなのっ。ね、新ちゃん、一緒にお出掛けしよっ!」
ぱっと笑って言えば、新ちゃんもふんわり笑ってくれた。新ちゃんは新八ちゃんの草履を履いて、私も自分の下駄に足を引っ掛け手を差し出す。
すると当然の如く繋がれる、私と新ちゃんの指。
温かいそれが、とっても嬉しかった。
さあ、何処に行こう。
私はそう考えながら、新ちゃんの手を引っ張った。
「で、俺ン所?」
首を傾げたのは、この前と同じくアイス屋というのぼり旗を掲げた泰三ちゃん。
私と新ちゃんは、手を繋いだままいつも行く公園にやってきた。
泰三ちゃんのアイス屋さんにはまだ桂さんが払ったお金があるので、私はタダでアイスが食べれるのだ。
「あのね、今日は新ちゃんとデートなのっ。だからアイス食べるんだよー」
「小百合ちゃん、相変わらず意味がわからないからね。デートが屋台アイスって聞いた事ないからね。」
「いーの! とにかくアイスくださいな!」
ぱっと手の平を広げて泰三ちゃんに差し出せば、泰三ちゃんは浅く息を吐いて引き車に着いた箱を開けた。
新ちゃんは不思議そうにそれを見つめている。
私は育ててくれた親から逃げたあの日まで、ずっと家から出た事がなかった。
なので京都の町は私の方が知らない事が多くて、いつもトキさんに案内してもらったり、新ちゃんと回ったりする。
そんな新ちゃんが、不思議そうな顔をしている。
私が知っているのに新ちゃんが知らない。
それに凄く優越感を覚えるのだ。
「なにこれ?」
「これね、アイスっていうの! 冷たくってねー甘くってねー、すっごく美味しい氷のお菓子なんだよっ」
「小百合ちゃんはアイスがお気に入りだからな。 はい、小百合ちゃん。そこのお兄さんも」
「へぇ…。あ、有難うございます」
ひょい、と差し出された木の棒の刺さった水色のアイス。
私の好きなソーダ味というアイスを受け取った私達二人は泰三ちゃんに別れ、公園をぶらぶらと歩き出した。
私達は一緒に居るのが当たり前なんだからっ(んぅ、美味しい!)
(……)
(んー、どったの新ちゃん?)
(いや、なんか小百合の食べ方が色めかしいなぁって思って)
(……新ちゃん、まだお昼だよ)
(あは、ごめんネ)
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