原田さんと春画と私



男の部屋というのは、どうしてこうすこぶる付きに汚いのだろうか。
扉を開ければごみ、ごみ、ごみの嵐。布団が引きっぱなしとかはもう気にしない事にしたけれど、ごみくずを屑入れに捨てないというのは何故なんだろう。あと本を平積みにするのも何故なんだ。

もうちょっと綺麗に出来ないのかな!
心優しいフミさんの堪忍袋の緒も、ぶち切れる寸前だよ!


「…しかし…、堪忍袋って何が入ってるんだろう」



現実から逃避するようにぶつぶつと呟きながら、綺麗にした部屋を後にする。
少し不躾だけれど、綺麗にしたそこを振り返らずに後ろ手で障子を閉じて歩み進めれば、庭から爽やかな風が吹いてきた。
うーん、なんて清々しいんだろう。
今日が休みで甘味屋さん巡りをしていたら、もっと有意義で清々しく感じるというのに、何が楽しくて私は他人の部屋を掃除しているのだろうか。

掃除も大詰めに差し掛かり、残す部屋もひとつ。

よーし、残りの部屋もちゃっちゃかちゃーんと終わらせよう!

そう決断した私は、最後の部屋の障子を力任せに開いた。


「あっ」

「え?あっ!」



小気味良い音を立てて開いた障子。私は部屋の中から顔ごと目を逸らし、その障子を手繰り寄せた。
そして閉める。ぱたん。

いや、だって、なんかお取り込み中だったし。
春本相手に、一人でお楽しみ中だったし。

やだ、乙女の口からそれ以上細かい事言えないわ。


そう思って踵を返すと同時に障子が開き、私の口を塞いで部屋の中へと引きずりこんだ。



「すまん忘れてくれ!」

「…んっ、ぎゃあああっ!」

「さ、騒ぐなよぉっ」

「騒がないから…っ、騒がないから早く服を着てください…!」


これ以上見てはいけないと、私は部屋の壁の方向を向いて膝を正した。後ろから聞こえる衣擦れの音に微かに苛立ちを覚えつつ、それと同時に一声かけずに勢いよく戸を開けた私が悪いのだろうなと思い直す。
もう大丈夫だと声をかけられた頃には、私はしょんぼりと頭を垂れた。

振り向けば、彼はいつも通りの服を身に纏い胡座をかきながらも、腹の辺りから下を羽織で隠していた。
…服を汚したりなんかしたのだろうか。


「えーと…すみませんでした、声をかけてから戸を開けるべきでした」

「いっ、いや!俺も日の高い内にヤる事じゃ、なか…っいや、言うべきじゃねぇか…!すまん!」

「…そんなに赤面しないでください、気持ち悪い。寧ろ顔を染めて嫌がるべきは私かと思いますよ?」

「うっ、そうだよな…。本当に悪かった…」


さっきの私よりもしょんぼりしている原田さん。
しかし、一瞬険しい顔をして、「…今、気持ち悪いって言わなかったか?」と呟いた。

どうやら、思わず本音が飛び出してしまったらしい。私はそれを軽くいなすと、気を取り直して要件を伝えた。
何だかんだで腰を折られてしまったが、私の最初の目的はこの部屋の掃除ただひとつなのだ。

けれど原田さんは、私の言葉にパチリと瞬きを繰り返した。そして、頬を紅潮させたままへらりと笑って一言溢す。


「じゃあ、掃除する前に頼みたい事があるんだけどな。実はまだ決着ついてないから、手ぇ貸してくんないか…?」

「…へ?」

「しゅ、春画みたいに、そこで襦袢の裾を広げてくれれば…って、まっ、待て!なんで酒瓶を握りしめ…いでっ!」

「ふ、ふざ…!ふざけんじゃねぇよ、たとえ幹部隊士の言葉でも出来る訳ないだろそんな事!!…あっ、離せ馬鹿力!!」


酒瓶を振りかざして、一発お見舞いしてやったのだけど、どうにも私の腕力では原田さんの巨体に負傷を負わせるのは難しかった。
それどころか、少しだけ痛がった彼に手首を掴まれて、私は壁際に追いやられてしまった。

息の荒い原田さんが、微かに楽しそうに笑う。
私の操に何かある時は、女癖が悪そうな永倉さんが原因だと勝手に思っていた。しかしそれがまさか原田さんに脅かされそうになるなんて。


だってこの人、今まで私とまともに会話したことなかったし…。
女の人に免疫ないんだと思ってたから、なんの危険性もないと自己完結していたのに、こんな、こんな…!


「ぎゃあっ!ホントやめろ!汚いもん擦り付けるな!」

「いいだろ、減るもんじゃないし…」

「嫌なものは嫌なん、だって、ば…っ!」

「おまっ、あんまり、動くと…うぅっ」

「…っ!!」



私の太ももや腹の辺りに押し付けられた、原田さんの固くなったモノから逃れようと、私は身を捩らせた。けど、それは逆効果だったらしい。
過敏になっていた原田さんはもともと限界が近かったらしく、私の腹から胸にかけてに、その体液を引っ掛けて果てたのだ。

私の首筋に額をつけて、原田さんは肩で息をする。
私はというと、ただ放心状態で立ち尽くすしかなかった。


死ねばいいのに。
心の底から、他人にそう思ったのは、後にも先にもこの一度だけである。


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