やましい気持ちと原田さん
(原田さん視点)以前、フミと料亭で酒を興じて以来、どうにも俺の心は夢見がちだ。
挨拶をすれば、返事を返してくれる。ちょっとした会話も出来て、笑ってくれる。それがどんなに嬉しいか。
一時期は本当に邪険にされていたから、その反動だな…。
そんな事を思い出しながら縁側に腰掛けていると、竹箒を持ったフミが歩いてきた。
「どうしたんですか原田さん、そんなボーッとして」
「あぁフミ、…いや、なんか幸せだなぁと思って…」
「…ふぅん…。 それって、私と関係してますか?」
「…え?」
「いえ、私がいるから…とか、そういうのなら…嬉しいと思って」
箒を縁側に立て掛けて俺の隣に腰をおろしたフミは、そう呟いて俺を覗いた。恥ずかしがっているのか、少し目元が潤んでいるようにも見える。
そんなフミの様子に、俺の頬も一気に熱くなった。
「…ねぇ、原田さん」
「っ! お、おぅ…っ!」
「今なら、…この前のお願いを聞いてもいいかなって、…思うんですけど、も…」
「この前の…って」
もしや、と思い、フミの手に触れる。拒絶されると思ったけれど、フミはそれを受け入れて真っ直ぐに俺を見た。
あの時は、殴っちゃってごめんなさい。
その言葉でこの前のお願いというのが「ヤらせてほしい」と言ったそれだと確信する。
吐息がかかるほど近くにすり寄ったフミは、俺の手を握り返して胸に宛がった。
…って、え?
「ま、ままままっ!待て!フミっ!」
「何で?原田さんが言ってくれたのに…。 あ、そっか…襦袢の裾、でしたっけ?」
ふわりと笑ったフミは、俺の膝に跨がるように裾をたくし上げて、全力で俺の身体を押し倒した。そのまま腹に馬乗りになった彼女を、俺は固まった状態で見守るしかない。
「フミ…っ」
「ね、原田さん。 私のハジメテ、貰ってくださいね」
そう囁かれ、我慢できる男がいるだろうか。
俺はすぐさま身体を起こし、その細い腰を抱き寄せながら露になった太股から脚の付け根の中心へと手を差し入れた。
恥ずかしそうに唇を噛むフミを呼んで、その唇に口吸いをする。歯列をなぞり口内を荒らせば、間から乱れた息が漏れた。
指に絡む水音が、特にやましさを駆り立てる。
あぁ、そうか。俺は今、この小さな身体を貫こうとしてるんだ。
そんな事を冷静に思って、喜びが全身に駆け巡った。
* * *
「──と、そういうところで、現に呼び戻されちまって…」
「ほぅ」
俺は、部屋の真ん中で正座をさせられている。
誰にだなんて、言わずもがなフミにである。
どうやら俺はさっきまで、土間に続くこの広間で昼寝をしていたらしい。
そこへ買い物帰りのフミが荷物を持ってやってきて、俺がちょうど寝言でフミの名前を呟いたらしく、振り向いたら俺が股のモンおっ勃てて寝ていたと…。
そこからはあまりにも分かりやすい筋書きだ。
腹の辺りを思い切り蹴られて起こされた俺は、鍋で頭を狙われた。それをフミだと思わずに応戦してその鍋を止めたのだけど、フミはそれを予測していたようで、ものすごい強さで平手打ちをしてきたのである。
パァン、と、つんざくような痛みと音が、身体を突き抜けた。
眠気も覚めた。一気に覚醒した俺は、自分のムスコの状態を見て全てを理解した。
そして目の前の赤面しているフミに思い切り土下座をしたのだった。
そこでフミに説明をし、先の状況に至る。
「…別に、ここで寝るなとかっ、もっ、妄想するなとか…っ、私の夢を見るなとか…そ、そういう事じゃないんですよ」
「…おぅ」
「ただ今回のは、その、…生理現象だと思うので…っ、咎めませんけどもね…!」
「…お、おぅ…?」
いや、殴ったじゃねぇか。と、文句も言いたくなったが、フミも気持ちを押さえられなかったのだろう。それくらいは多目に見てやろう。
顔を真っ赤にしたフミは、俺の目を覗いて口をへの字に曲げた。
むくれているフミがまた可愛くて、俺は口角を緩める。少女はそれを目敏く見付け、またむくれた。
「もー、原田さんなんか知りません!とっとと出てってください!」
「ここで寝てるのは構わないって言ったじゃねえか」
「今日はもうダメです!」
踵を返して土間へ向かうフミの背中を見送り、俺はまた頬を緩める。
「あぁ、なんか幸せだなぁ…」
夢の中と同じ事を呟けば、フミはこちらを一瞥した。そして一言「まあ、隊務頑張ってください」とぶっきらぼうに言い放つ。
あぁ…。本当に、なんか幸せだ。
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