藤堂さんのお誘い4

(永倉さん視点)



平助に押し倒されたところを左之助に助けられたフミちゃんは、フラフラしながらも俺の後ろに隠れた。


「と、藤堂さん、は、…自分が酒グセわるいって、しってます?」

そんな質問に「知ってんじゃねぇの?」と投げ槍にも聞こえる返答をすると、フミちゃんは思った以上に呂律の回っていない声で小さく悪態つく。
その様子は誰が見ても完全に『ダメ』だろう。


「おいおい、大丈夫か? 他人の調子で飲んでるから、酔いが早ぇんじゃねぇの?」

「ん…、らいじょうぶ、れす。ありがとうございま、ふ…ぅあ…?」

大丈夫と言いつつ、フミちゃんは少しずつ前のめりになっていった。
振り向き様に押さえる事が出来ず、頬を染めたフミちゃんは、ゆっくりと俺の膝に倒れ込む。横向きで倒れたフミちゃんは顔を顰(しか)めてから俺を見上げた。
視線が交わり、彼女はゆるく笑ってみせる。


「…フミちゃん、あんまツラいなら帰るか?」

「らいじょうぶれすよぉ、にゃがくらひゃぁん…」

「…いや、いやいや…、マジで酔ってんじゃん」

「んふふ…っ、しってますよぉ…酔ってますね、わたし、…ふふふっ」

楽しそうに笑っているが、自ら『酔ってる』と豪語する酔っ払いをそのままにさせておく訳にはいかないだろう。

とにかく水でも飲んどかないと…。
そう思った俺の手に、軽く痛みが走る。見てみれば、俺の膝に頭を乗せていたフミちゃんがそれをつねっていた。
横向きだった彼女は、いつの間にかうつ伏せて俺の太股に胸の辺りを押し付けるような体勢になっている。
役得だと思いつつ、柔らかいよりも服が濡れてる事の方が気になるんだけども。
それにしても、酔ってる所為かいつもより行動が可愛いかもしれない。

叩いて、つねって、引っ掻いて。それを繰り返したフミちゃんは、俺が見ている事に気付いたのか顔をあげて小首を傾げた。


「…フミちゃん、痛いんだけど?」

「やぅ…。らって、永倉ひゃんが、無視するから…」

「む、無視してねぇから…っ。 と、とりあえず、ちょっと横になって休んでおきな。今、水頼んでやっから」

「れも、…ごはん、まだひゃんと食べてない…から。だから、…ここで、たべてもいいれすかぁ…?」


必然的に上目使いで俺を見るフミちゃん。
フミちゃんの膳を見れば、なるほど確かに食事にはほとんど手がついていない。
開始して幾ばくもしないで平助に絡まれていたのだから、当たり前だとは思うが。

構わないと伝えれば、柔らかい声音で「良かった」と聞こえてきた。
でも、こんな状態で箸は使えるのか?
手で食べるにしても、握り飯がある訳でもなしに、そんな簡単にはいかないだろう。

もぞもぞと姿勢を正したフミちゃんは、それでも自身を支えられずにふらつきながら俺にもたれ掛かった。
あぁ、くそ。可愛い。
いつもの勝ち気な感じもいいけど、酔ってる所為で覚束無い言行がそそられるというもんだ。

横目で見ていれば、フミちゃんは俺の膳に乗っていた漬け物に手を伸ばし、指で摘まんで口に運んだ。そして流れるように、置いてあった俺の猪口を煽る。
…って、まだ飲むつもりなのか。

「フミ、酔ってるなら酒は止めた方がいいんじゃないか?」


正面から、左之助がそう声をかけた。床にはいつの間に寝たのか、幸せそうな顔をして眠る平助が転がっている。
心配してそう言ったのだろうが、左之助はその言葉に首を傾げたフミちゃんの様子に一気に赤面して口ごもった。
フミちゃんの女っぽい仕草に射抜かれたのかもしれない。女が苦手な女体好きという、なんとも難儀な体質の左之助なら、有り得るだろう。


「らって、すきなんだもん…」

「すっ…すすすす…好きって…っ?!」

「左之、酒の話だと思うぜ」

「あ、そ、そうか…。いや、好きでも…、その、酔ってるなら…」

「ダメ、れすかぁ…?」

「だだっ、だだだめっていうかぁぁ…!」


酔っているフミちゃんよりも顔を赤くした左之助は、顔を逸らして俯いた。
いろいろと限界なのか、息が荒く感じる。そう思っていると、急に立ち上がった左之助は部屋の外へと向かって歩き出した。


「…っ、そっ、外で頭冷やしてくらぁ…」

「…おぉ、いってらー」


その背中を見送り、ふと思い出して「帰りに水貰ってきてくれ」と言えば、力ない返事が聞こえた。
厠で何とかしてくればちょっとは立ち直るんじゃなかろうか。


「んむ…もひかして…はらだひゃんも、酔ってましたぁ?」


俺の猪口の中身を飲みきって漬け物を頬張るフミちゃんの、なんて無垢な事。
自分がこの場にいる男を翻弄し続けているとは、つゆとも思っていないだろうなぁ。

「あぁ、そうねー。正確には、フミちゃんに酔ってたって感じだけど」

「…?」

「いいよ、気にすんな。 とりあえずその味噌汁も飲んじゃっていいから」


俺の言葉にぱっと頬笑み、フミちゃんはお椀に手を添えた。

あぁ、なんつーか。

「ほんっとに可愛いね、フミちゃんは」


俺の呟きは彼女の耳には届かず、けれど幸せそうなフミちゃんの顔を見ていると釣られて俺も幸せな気持ちになるのだった。


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