藤堂さんのお誘い3




先に述べた通り、私はお酒が好きだが、別段これといって得意ではない。
なので今日は、出来るならばお酌に徹して、私は少量のお酒を楽しめれば良かったのである。


しかし、これはどういう事なのだろう、か。

「フミしゃん、ほら、飲んれますか〜」

「藤堂さん、ちょ、まっ、待ってください…っ。んっ、そんなに注がないで…っ!」


飲みかけのお猪口に、とぷとぷと注がれるお酒を、私はあふれないように唇で吸った。
この早さで飲んでいたら、私の意識はそう長くは保てないだろう。なんてったって、私はいろんな意味でお酒に弱いのだから。

私の隣でニコニコと笑っているのは、さっきまで「僕は双方を擁護するつもりですから」と息巻いていた藤堂さんだ。
そう、藤堂さんなのだ。


「は…っ、も、大丈夫れす、から…っ」

「らに言ってんですか?飲みましょうって、言ってたのはフミしゃんですよ?」

「…そっ、そうなんれすけどぉぉ…! ひあ?!」

「フミしゃん良いニオイしますね〜」

「ちょっと待って藤堂さん、なんの脈略もない行動は…ひぃぃっ!永倉さん助け…あっ零れる!零れるから止まってください!」


首筋に擦り寄って横から抱き締めるその腕からは、どうにもこうにも逃げる事は出来ない。
私の手中のお猪口は空になれども、藤堂さんの持っている徳利にはまだ中身が入っていそうだ。私が倒れてしまえば、もろとも倒れてその中身を畳へと差し出す事になりそうである。
うむ、それは勿体無いから阻止しておきたい所だ。

そんな悠長な事を言ってはいられないのだけど、私は目の前にいる永倉さんに視線をくべた。

けれども助け船はあまりにも無責任なそれだ。


「ガツンと言わないと、酒グセが悪い平助は止まんねぇだろうな」

「んなバカな…!」

「だから言ったんだよ、本当に振りたいなら期待を持たせんなって。 いつもは自制できても、酔ってたら何するか…」

「うぎゃっ! ぅいぃったぁ…」

「わかんないよって…あーあ…」


あーあって何だよ、あーあって。
大丈夫?くらいは言ってくれよ…。

私は天井と藤堂さんの笑顔で視界を埋めながら、結局顔からお酒を被ってしまった結末に軽く息を吐いた。
藤堂さんの手から徳利を奪う事に夢中になりすぎて、藤堂さんの抱き締めつつ押してくる力に耐えきれなかったのだ。
鼻をくすぐるお酒のニオイに、私の意識はもう途切れる寸前だ。

一緒に倒れてしまった藤堂さんは、キョトンとしたまま私の顔を覗く。そして私の頬についたお酒を舐めた。
思わず出た声に、藤堂さんはへにゃりと笑って見せる。

身を捩るけれども、頬から首筋にと降りていく唇から逃れるのは至難の技だ。


「あは…フミしゃん…お酒の味がして美味しうぎゃっ!」

「ひぇっ?!」

「平助、流石にやり過ぎだ」

「チッ…邪魔しないでくださいよ〜、はらださん」

「お前舌打ちすんなよ…フミが嫌がってんだろ。あんまやってんと、フミの恐さを身を持って知るぞ?」

「うっ…」


経験者は語る、という感じだろうか。
突然私の上から退いた藤堂さんは、どうやら原田さんに掴み上げられたようだ。不機嫌そうに唇を尖らせた彼は、原田さんの言葉に一瞬たじろぐ。

そんな二人から逃げるように、私は四つん這いで向かいに居た永倉さんの後ろに隠れた。


「と、藤堂さん、は、…自分が酒グセわるいって、しってます?」

「さぁな…知ってんじゃねぇの?」

「たちが…わるいれす…」

「おいおい、大丈夫か? 他人の調子で飲んでるから、酔いが早ぇんじゃねぇの?」


ふわふわとする思考に、永倉さんの言葉だけが染みて消える。

酔いがはやい。ほんと、それだ。
しかも顔にかかったお酒は容赦なく服に染み込んでいて、飲んでなくてもお酒のニオイに頭の中が溺れていく。
心配してくれる永倉さんに感謝を述べつつも、私は少しずつ斜めになっていく自分のからだを支えることができなかった。


私の記憶は、その辺りで途絶えている。


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