沖田さんの悪戯心





「フミちゃん、これ食べない?」

仕事の合間にボーッとしていた私の首根っこを捕まえた沖田さんがそう言って取り出したのは、ひとつのおまんじゅうだった。


「…うわぁ、美味しそうデスネー」

「そんな微妙な表情で言うもんじゃないでしょ」

「いや、あの沖田さんが持ってきた所為で、美味しそうなのに裏がありそうで…。あと離してくれると嬉しいです」

「あは、ごめんごめん。それにしても、すごい素直だね!フミちゃんのそーいうトコ、キライじゃないよ」

「…あ、そうですか」


げんなりとして言えば、沖田さんは私の手におまんじゅうを乗せた。控えめな大きさなのに、なんとも重量感があるそれに、私は思わず唾を飲み込む。
あんこがいっぱい詰まっているんだろう。黒のこしあん、だろうか。つぶしあんも捨てがたいな。それとも意表を突いて白小豆?甘藷で作ったあんも美味しいと聞いたことがあるから、それでもいいな。

希望に胸を膨らませつつおまんじゅうを見つめる私に、沖田さんもいい笑顔だ。
「どうぞ」と声がかけられ、思わず私は「いただきます」と言葉を返した。

そう言ってしまったからには、食べない訳にはいかない。
意を決して、私はそのおまんじゅうにかぶり付いた。がぶり。もぐもぐ。…うん、うん?


「んむ、んぐ…? おい、しいです…?」

「どーしてこっちに問い掛けるの」

「いえ、予想外だったので、私も気が動転しているといいますか…なんというか…」

「せっかく美味しいお饅頭買ったからフミちゃんにもあげようと思ったのに、そんな風な反応されると悲しいなぁ」

「へっ?! す、すみません!そんなつもりではないってー!何すんですか?!」

「何って、仕返し?」



飄々とした顔でそう言った沖田さん。彼は心配して覗き込んだ私の額を思いきり弾いたのだ。バチンともガツンとも取れる音を奏でて弾かれた私の額は、恐らく赤くなっているだろう。

仕返しと称したそれは、一体何に対しての仕返しだというのだろうか。

それにしても痛い、非常に痛い。
てめぇマジふざけんなよ、痕が残ったらどうすんだよ。

そんな言葉を飲み込んで、私は口を噤む。


「あの、沖田さん…」

「んー?」

「おまんじゅう、美味しかったです。有難うございました」


ひどい男だ、とは思うけれど、美味しいおまんじゅうを貰ったのは事実だ。それを尊重して、私は微笑みかけた。

まあ、出来れば次は、もっと安心安全な方法で、美味しいおまんじゅうを手に入れたいところだけれど。


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