市村君に看病される




思えば、私は今朝から具合が悪かったのかもしれない。

今日はやたらと節々が怠いと思っていた。頭が痛む気もしていた。喉が乾きやすい気もしたし、それから何だか身体が熱くて、あぁ、そうだ吐き気もしてた。


「そこまで証拠があって、よくもまぁ『具合が悪かったのかもしれない』だなんて曖昧な事を言えましたね」

「へぁ…、ひゅみまへん…」

「いいから鼻かんでください、垂れてます。ほら、懐紙」

「おぉぉ、めっちゃ上等なモン出てきた…。私はちり紙でいいんすよ…」

「とか言いながらも懐紙を受け取りましたね」

「懐紙に罪はないからね、そりゃ使うよ…ずびーっ! うあー…」


現在、私は自室の布団に丸まりながら、口煩い小姑のような市村君に介抱されている。
さきに述べたように、具合が悪かった私は、廊下の端っこで息も絶え絶えにして倒れていたのだ。うぅむ、それにしても最初に見付けてくれたのが市村君でよかった、他の人だと食われていた可能性が…。


「それにしても、死んでるのかと思いましたよ。」

「助けてくれてたのが市村君で良かったよ…他の人は…何されるかわかんな」

「とどめをさせば良かったですね」

「え、何それ、おかしくない?」


第一発見者が市村君なのもいささか問題だったかもしれない。
少年のからかうような言葉に、私は頬を膨らませて小さく抗議した。けれど市村君の表情は柔らかくて、思わず言葉に詰まる。

くそ、調子が悪いのに、さらに調子が狂う…っ。


「と、とにかく…私は…こう…あれだよ…。具合悪いからさ…」

「はぁ。」

「…、察してくれよ、労えっつってんだよ、お茶とお菓子でも持ってきてくれていいんだよ…?」

「そんな事より、はやく寝たらいいのでは?」

「…しんらつ…。 …う、ほんとにツラくなってきた…」


ゴミを屑籠に放り込んだ私は、そのまま布団へ突っ伏した。下ろし髪が顔にかかるのも気にせず俯せから仰向けになる。
あ、寝巻きの襟が乱れた。


「…フミさん、女の自覚あります?」

「…へ…?」

「俺だって、貴方が警戒してる男ですよ、それなのにこんな」


ふわふわとした視界に、市村君の指が映る。額に触れたそれに驚いて目を閉じれば、市村君の指も一瞬動きを止めた。
すぐに目を開けたけれど、彼は少し眉間にシワを寄せたまま私の額に張り付いた髪の毛を正し、それからその額を弾く。痛い。


「無防備過ぎる」


呟くように言ったその言葉は、上がってきた熱と会話中もお構いなしに襲ってきた眠気の所為で上手く理解が出来なかった。
もう寝てください、と私の目を覆うようにした市村君の手は冷たくて、熱のある私には気持ちがよくて仕方ない。口許が緩んで、笑いが込み上げてくる。


「手ぇ…つめたい、ね…」

「早く寝てください」

「ふへ…。おや、す…み…」


はい、おやすみなさい。と、市村君が言う。
どろどろと眠気に溶けていく意識の中で、微かに唇に触れたものなど、わかるはずがなかった。



鉄之助の手が冷たいのは、雪豹の能力の賜物です。
という捏造です。



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