晩酌 後日談





目を覚ますと、私はきっちりと寝巻きを着込んで布団に包まっていた。


「…う、うぅん…眠い…つーか、あったまいたー…」

体を起こして伸びをすれば、ズキズキと頭が痛む。それは正しく二日酔いというものである。
そうか、昨日は尾関さんと一緒にお酒飲んで…うん、お酒飲んで寝たんだな私。全くもって覚えてないけど。


回りを見渡せば晩酌を楽しんだ形跡はなく、それどころかいつもよりも綺麗に敷かれた布団が部屋の真ん中に位置している。
もしや、後片付けをやらせてしまったばかりか、尾関さんに布団を敷かせてしまったんじゃなかろうか。
それどころか、下手したら私、暑くて脱いだんじゃないか。だからこんなにきっちり着せられてんじゃないのか。

寝起きな上に二日酔いだというのに、私の頭の中は異様に冷静だ。

謝らなければ。すぐにでも謝らなければ、また怒られてしまうかもしれない…!
そう思って勢いよく立ち上がれば、その勢いで頭がとびきり大きく痛んだ。それに負けて座り込み、頭を俯けた。痛い、これはヤバい。やっぱり飲み過ぎたんだろう。
吐きそうではないけれど、頭痛が非道くて立つのがツラい。

何か飲みたい…水…お茶…いや、島田さんの作ったお味噌汁がいいな…。

必死に部屋から這い出ると、障子を開けた先に人がいて上から短い叫び声が聞こえた。


「お前…何やってんだよ」

「…は、はれ…?尾関さん…」

「一旦、中入れ。茶ぁいれてきたから飲めよ」

「はい…」


障子を開けきって中へ入った尾関さんを首で追い、上手く体が起こせない私は唸りながらも四つん這いで部屋の中へと舞い戻る。ずりずりした所為で若干寝巻きが乱れたのはしょうがない。
尾関さんによって文机に置かれたお盆には、お茶が乗っかっている。ガンガン痛む頭に眉根を寄せれば、尾関さんは湯飲みを私に手渡した。


「結構飲んでたし、起きたらぜってぇツラいと思ってな」

「…私、やっぱり沢山飲んだんですね…。あ、ありがとうございます」

「まぁ、半分くらいは飲ませ…飲んでたしな。」


気まずそうに頬を掻く尾関さん。
きっと尾関さんは、私ががばがば飲んだのを止められなかったとかなんとか、そういうので責任を感じているんだと思う。そんなの、私の自己責任だろうに。

あー、お茶が美味しい。お味噌汁飲みたいとか言ってたけど、お茶最高だわ。
はぁ、と息を吐いた私を凝視する尾関さんに、思わず動きを止める。

…なんだろう、そんなに見られると恥ずかしい。何が楽しいのか…はっ、あれか、ヨダレの跡とかついてるのかも。そういえば寝起きだから顔面汚いかもしれない、やばい死ぬほど恥ずかしい。死のう。

「い、いや!寝起きでも十分可愛いから落ち着け…!」

「やだ別に可愛くはな…って、あれ、また口に出してた? すみません、あの…、落ち着きます…。」

「お、おう。 それで、あの…フミ?」

「はい、なんでしょ…あっそういえば昨日はすみませんでした!なんか後片付けとかやらせちゃったし布団とかどー考えても尾関さんが敷きましたね?めっちゃ綺麗に敷いてありましたもんね?!」

「お前全然落ち着いてねぇよ、落ち着けって言ってんだろ…!」

「いや、だって私、昨日の記憶無いんですよ?!めっちゃ不安だしどんな粗相をしでかしてあーっ頭痛い!!」


まくし立てるように叫んでからお茶を飲む私に、尾関さんが安心したような表情をした。いや、何に安心してんだか訳がわからないよ私。
「そうか、覚えてないか」と呟いた彼は、もう一度「まあ、落ち着け」としっかりした声音で言った。そうまで言われたら落ち着かない訳にはいかない。
とりあえず喋らないようにしよう。そう思った私は口を閉じて尾関さんを見る。

「粗相もなにも、お前は普通に酒飲んで普通に酔って普通に寝た、それだけだ。俺に迷惑なんかかかってないし、むしろ良かっ…いや、とりあえず、二日酔いが酷いようなら今日は昼まではゆっくりしてろ。
…お前、落ち着いたとしても返事ぐらいはしろよ。」

「あ、すみません。 でも、午前中だってやること結構あるのに…」

「立ってられない癖になに言ってんだ」

「うわぁ、返す言葉もございませーん…。それじゃあお言葉に甘えてお昼まではゆっくりします」


優しい言葉をかけてくれた尾関さんに、私は「ところで」と続けた。その声に、尾関さんは不思議そうに首を倒す。

「私、もしかして脱ぎませんでしたか…?」


そう疑問を投げれば、尾関さんは目を丸くして顔を真っ赤に染め上げた。


あ、これは。


「いやっ!俺は別に…っ、見てない!見てないからな!」

「…」

「はだけたのを着せただけだ…!」

「や、もう、忘れてください…」

必死な尾関さんの言葉に、私はもう一度こう思った。

うん、恥ずかしすぎて死ぬしかない。死のう。


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