庭の畑と藤堂さん



屯所の庭のすみっこには、ささやかな畑がある。
当番制で、みんなが面倒を見ている畑だ。

といっても、気付いたら殆どが藤堂さん一人で面倒を見ているようだけれど。


「こういうの楽しいから、別にいいんですよ」

いわく、そうらしい。

まるで小動物のような藤堂さんに倣い、私もその土に生えている雑草を抜いた。つもりだった。


「あ、フミさん、それは人参の芽です…」

「えっ、ウソ、ごめんなさい」

「…いえ、いいんです。フミさんは…その、その辺で見ててくれれば」


苦笑いをする藤堂さんは、有無を言わさぬ感じで私に言った。それに負けて、私は少し離れた場所に腰掛ける。

はい、退去命令出ましたよ。
どこ行っても作業が出来ないな私は。
や、しょうがない。しょうがないよ、今抜いたのどう見ても雑草だったよ。同じのたくさん生えてたもん。
あれ、同じのがたくさん生えてる時点で育てている野菜なのか。そうか、そうかもしれない。

畑に目を向ければ、藤堂さんは一人で黙々と、且つ楽しそうに作業を続けている。


「…はぁ、藤堂さんの役に立ちたかったのになぁ」

そんで、役に立てば、永倉さんと好い仲とかいうとんでも解釈を覆せると思ったのになぁ。

足を投げ出し、そういう意味を込めて呟く。
すると俯いていた藤堂さんはパッと顔を上げて、私の方を見た。素早い動きに若干ビックリしたけれど、目があったので微笑みかけておいた。
とりあえず愛想を振り撒いておけば安泰だって、近所のお姉さんも言ってた。

藤堂さんはそんな私を見て少し瞠目し、頬を赤くしてから勢いよく後ろを向いた。


(…なんだ、その反応は)

嫌われてんのかな。
いや、微笑みを振り撒いている私に死角などないハズだ。
約数名に口が悪いのがバレてるけど、そこから嫌われるなどそんな…そんなバカなことはないハズだ…。


「…そういえば藤堂さん、今なにか収穫出来るお野菜はあるんですか?」

「ひぇっ?! いぃっ、今なら水菜が採れると!思います…!」

話を変えようと切り出せば、動揺したのか上擦った声で返事が返ってきた。
顔を真っ赤に染め上げた藤堂さんが微笑ましくて笑えば、恥ずかしそうに俯く。あ、バカにした訳じゃないんですよ、誤解しないでください…。

取り繕う為にしゃがんだまま下を向く藤堂さんの目の前まで歩み寄り、同じようにしゃがんで藤堂さんを覗く。簡単には目線があわないので、思い切り下から覗いてみた。

若干涙目な藤堂さん。私の行動に驚いたのか、彼は尻餅をついて、私から離れる。
そんなに嫌われてんだろうか、だとしたら精神的に衝撃がすごいな…。
そう思ったのが顔に出ていたのか、今度は逆に思い切り詰め寄られた。


「あっ…違うんです!フミさん、が、嫌だとかそういうのでは、ないんですよ…!」

「えっ、あ、そうですか…」

「そうです…!むしろ、僕はフミさんの事が好きですから!!」

「へ?」

「好きです、フミさん!!」


二回も『好きです』と言われた私は、ぽかんとするしかなかった。というか、今の大声は確実に誰かに聞かれているだろう。

私の個人的な事までどんどん筒抜けになるな、この屯所。逡巡する私に、藤堂さんは眉根を寄せて切ない表情でこちらを見る。私の返事を待っているのだろう。

言葉に詰まる私に、段々と絶望を孕んでいく。
それがどうにもいたたまれず、私は藤堂さんの名を呼んだ。


「…あの、私、誰かと恋仲になるつもりはないんです」

「そ、…そう、ですか」

「でも!」

「はっ、はい!」

「でもね、藤堂さんはとてもお優しいから…屯所の中では私の心の拠り所のひとつですよ」


そう言って、笑ってみせる。
近所のお姉さんの教え通りの、好意に好意で返しつつも好意に答えないという悪女な返答である。
これからも、よろしくお願いしますね、と手を握れば、藤堂さんは顔を真っ赤にして頷いた。


ちょっと気分がいいので、今日の藤堂さんの夕飯には色をつけてあげよう。それからお薦めの水菜も、豆腐と一緒にお吸い物にいれてあげようかな。

藤堂さんの決死の告白をよそに、今日の夕飯の献立が決まった瞬間だった。



因みに藤堂さんは地獄耳という捏造設定があるので、「役に立ちたかった」発言は聞こえていました。


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