沖田さんにはご用心



永倉さんと恋仲なの?!と、切羽詰まった表情の藤堂さんに尋ねられたのは、少し前の話だった。

永倉さんの奢りで甘味屋を堪能した私は、「一人で帰しちゃってごめんね」と買い与えられたお土産のお団子を食べながら屯所に帰宅した。
店で食べた餡団子も美味しかったけど、この焼き団子も絶品!これはきっと知る人ぞ知る名店になるに違いない!

そう考えながら満面の笑みで屯所の門をくぐった私に、さきの質問が叩き付けられたのだ。



「こ、恋仲な訳、ないじゃないですか。組長格の方とそんな、恐れ多い」

「でっ、でも、一緒に甘味屋に行ったんですよね…?」

「行きましたけど…。でもそれは、永倉さんがお一人で甘味屋さんに行きづらいからでしょう?別に恋仲じゃあ…」

「そんな…っ、取り立てて甘いのが得意な訳でないのに、永倉さん一人で甘味屋に行く訳ないじゃないですかぁぁ…!」


少し泣きそうな声でそう言った藤堂さんは、バタバタと屯所の奥へと駆けていった。

いや、なんなんだよ。
あんな人と恋仲だなんて有り得ないのに、どうしてそれを勘繰ってくるんだ。否定も受け入れてくれないとなると、私は藤堂さんに誤解されたまま日々を過ごさなくてはいけなくなるのか…?

おいおい!それは困る!
仕事がしにくくなるじゃないか!


そうしてその日から面倒臭い誤解を解くべく、私は緻密かつ適当な計画を進めたのだった…。



* * *


「とにかく、永倉さん以外とも仲が良いと思わせるべきなんだよな、きっと。」

永倉さん以外となると、原田さん…は、本気で死んでほしいから却下だな。
またあんな目に遭ったらたまったもんじゃない。

市村君は私に厳しいから無理だし、山崎さんは私を見る度に期待の目で見てくるので付き合いづらい。
あれ、もしかして私の交遊関係めっちゃ狭い?

斎藤さんは喋ったことないから、今から仲良くするのは骨が折れる。
局長や副長には、それこそ恐れ多い。


廊下を歩きながら、そう考える。

手に持っていた掃除道具を物置部屋に片し、狭い部屋の中で深く溜め息を吐いた。

誰か実害がなくて、尚且つ藤堂さんのとんでもない誤解を解けるちょうどいい人居ないかな。
はあ。

あまりにも考え込みすぎていたのか、その時の私は後ろに人が立っている事に一切気が付かなかった。


「…わっ!」

「うぎゃああぁぁ?! 誰だよマジでふざけあっ、いやっ、ななななにをするんですかぁっ」

「今すごい暴言吐かなかった?」

「あぁんもう、ビックリした!驚かせないでくださいよ沖田さん!」

「ねえ今すごい暴言吐かなかった?」

「嫌ですよ沖田さん、私が沖田さんに暴言だなんて吐く訳がないじゃないですか、うふふふ」



笑う私に、沖田さんは大きな瞳を瞬かせた。
訝しげに唇を尖らせる彼に、私はなおも微笑みかける。多少納得していないようだけれど、沖田さんは「ふぅん」と吐息を漏らして私から顔を逸らした。
よかった、バレなかったぞ。

そうだ、そういえば沖田さんになら頼めるかもしれない。おんなじ甘味仲間だし、きっと藤堂さんも認めてくれるに違いない。
よし、善は急げだ!


「あ、あの沖田さん!」

「ん? なぁに、どうかした?」

「あの、私と仲良くしてもらえませんか!?」


詰め寄ってそう言えば、沖田さんは目を見開いて、それからにんまりと笑った。
え?何か、何かおかしいぞ…?

詰め寄ったのは私なのだけれど、沖田さんはそれよりも近付いて私の腰を引き寄せる。その所為で完全に密着してしまい、私は思わず顔を背けた。

どう考えたって恥ずかしいじゃないか。
結構整った顔してるんだよ、沖田さんって…。

それがこんなに近い所にあったら、そりゃあ恥ずかしいに決まって…


「…ひぁっ?!」

「ん、イイ反応するじゃん。 ねぇ、フミちゃん、こんな人の来ない狭い部屋の中で男に『仲良くしよう』だなんて、結構淫猥な性格なんだね」

「い、いんわ…、…えっ? いや!違いますよ?!そういう意味で言ったんじゃ…うぁっ、首っ!そこ、やめ…っ!沖田さんっ、ちょっ、沖田さんってば!!」

「フミちゃんウルサイ〜。ちょっとこれ噛んで黙っててよ」

「んっ、ん…ぅぐ…!」


口の中に突っ込まれたのは、沖田さんの襟巻きだ。
吐き出そうにも、思い切り突っ込まれたそれを舌の力だけで押し出すのは至難の技だった。しかも、首筋から段々と下に降りていく沖田さんの口付けから逃れようと身を捩らせつつそれを行うのは、至極無理な話である。

胸を押していた手も頭の上で束ねて押さえられ、抗う事も難しくなった。

恋仲疑惑を払拭するつもりだったのに、何故ここで貞操の危機?
おかしい、永倉さんを警戒しておけば大丈夫だと思って…あ、思ってたから原田さんにあんな事されたんだった。
いやでもだからって、沖田さんを警戒するのはあんま考えてなかったっていうか…!

ああ、もう。
なんでこんな…!




「ふ、ふぅう…っ」

「あれ、泣いてるの? 大丈夫、優しくしてあげるよ。 ふふ、フミちゃんって結構綺麗な身体してるよね。いつも思ってたけど、胸おっきいし肌スベスベだし…でも、もしかして、こういう事はハジメテ?」

「…!」

「…へぇ、そっかー。じゃあますます優しくしてあげなくちゃダメだね」

楽しげにそう言った沖田さん。
暴れた所為で捲れた裾から手を差し込んで、私の太ももをそっと撫でる。あ、ヤバい、鳥肌が立つから本気でやめてほしい。

ぼろぼろ流れる涙を見て微笑んだ沖田さんに、苛立ちすら覚える。
下腹部に熱くて固いモノが当たり、原田さんとの事件を思い出した。これは、本格的に不利だ。

物置部屋にあった縄で私の腕を雁字搦めにした沖田さんは、それを棚の上の方にあった鉤状の釘のような部分に引っ掛けた。
両手をあげた状態でそこに張り付けられた私はただひたすらに叫ぶしかない。布を噛ませられていても、大声ぐらい出せる。そりゃまあ、くぐもってて何言ってるかはわからないだろうけど…。

「うーっ!んんっ、おふぃははん、…っんく」

「うるさいな、誘ってきたのはそっちでしょ?何を今さら嫌がってるのさ」

「んぐっ!」


誘ってねぇっつーの!!

やめてください、と言った私の言葉は全て布に吸い込まれていく。しかも私が暴れる事で棚が鳴り、私の声も掻き消している。しまった、自分から己を追い込んでるぞこれ。

私の両手を塞いだ事で、逆に沖田さんの両手は自由だ。それはもう楽しそうに私の帯を緩めた彼は、私の胸元を大きく開いた。
首筋を舐めて鎖骨に口付けを落とし、片手で私の胸を弄りながらもう片方の胸を口に含む。
転がすように舐める沖田さんの口内は熱いんだかぬるいんだかよくわからない。甘噛みされ、押し潰すように刺激されて、私の頭の中は白くボーッとしてくる。
ヤバい、これはヤバい。このままだと本気でヤられる。
私は、襲ってくる痺れるような快感を、腹の底から沸き上がる苛立ちで隠して、もう一度思い切り腕を動かして暴れた。


「泣きながら嫌がるフミちゃんも可愛いね。 でももっと艶っぽく泣かせいてててて!」

「?!」

「いったぁ…上からなんか降っあだっ!」


ガラガラガラ、と金物が落ちる音に続いて、何かが固めの物に当たる音が聞こえた。
私の視界では、沖田さんの上に釘やかすがいが降り注いだ後にそこそこの大きさの木箱が直下し、脳天で受け止めた沖田さんはその衝撃に耐えかねて顔を顰(しか)めて私から数歩引き下がる。

好機到来だ。
私はこれを逃すまいと、少し下がった沖田さんの股座を目掛けて右足を思い切り蹴りあげた。




この時、沖田さんがどれだけの痛手を負ったのかは、女である私にはわからない。
しかし、私がどれだけ傷付いたかなんて男の沖田さんには到底わかるまい。

うずくまって悶絶する沖田さんを尻目に、私は背伸びをして鉤にかかった縄を外した。鉤の場所が高くて、少し引っ掛けてしまったけれど、そのお陰で緩んだ縄は簡単にほどけてくれた。

「フミ、ちゃん…っ!」

「んっ、んはけんあぁぁ!」

「あぐっ!」

先程の木箱を顔をあげた沖田さんの頭に叩きつける。バッキバキに崩れた木箱を頭にかぶり、沖田さんはパタリと倒れた。

あ、ヤバい、死んだかも。

口に突っ込まれた襟巻きを取りながら沖田さんの様子をうかがうが、しかし医者でもない私には、彼がどんな状態なのかも予想がつかない。



うん、しょうがない。
私は襲われかけたんだ、それで反撃してこうなった。正当防衛だ、大丈夫。
でも、ちょっと心配だから…。


「沖田さん、もし死んだら貴方が強姦しようとした事を触れ回りますから、だから必ず生きてくださいね。後生ですから、私を殺人犯にしないでください、お願いします…」




両手をあわせて呟いたその願いが沖田さんに届いたかはわからない。いや、恐らく届いてはないだろう。
しかし私は私の貞操が守れて満足である。
いつ起きるかわからぬ沖田さんを置いて、私はその場を離れたのであった。


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