きっと悲劇のヒロインみたいな
(いち)
明らかに空元気とわかる態度ほど心配なものはない。
仕事が捗らない訳ではない。
気が入らない訳でもない。
ただ、山崎さんのお面の下に隠れた表情はこちらには知れず、俺や島田さんは、彼の体調やら諸々が心配で仕方なかった。
「…山崎さん、ちゃんと寝てるか?」
「やだなぁ、なに言ってるんスか。寝てるに決まってるじゃないっスか」
「それなら、まぁ…良いんだけどよぉ…」
言葉をかけてもはぐらかされて、食事の量はもとよりそれほど多くないので計る物差しには不十分。
顔色から見る事も出来ない為、口頭でのやり取りで感じ取る他ない。
けれど山崎さんが空元気である事は、火を見るよりも明らかだった。
いわば、勘なのだけど。
「島田さん、どう思います?」
「うーん…サチが戻ってこない事には、山崎さんは元通りにはならなさそうだな」
「そうですよねぇ…。 うーん…いっその事、サチに会いに行かせるか…」
「副長に相談してみるか。會津藩との事だから、俺達が勝手にする訳にもいかないしな」
「そうしましょうか。じゃあ俺、早速ですけど、局長達に話つけてきます!」
そう結論に達し、俺は局長のいる部屋へと急いだ。
事のあらましを話し、山崎さんに休暇を与えてくれないか願い出てみれば、局長は「うーん…」と口をへの字に曲げた。
その隣の副長も、渋い顔をしてキセルをくわえる。
「む…無理は承知です、完全に私事ですし」
「いや、その逆ですな」
「逆?」
「尾関、ちょっと、山崎を呼んできてもらえるか」
副長の言葉にぱっと笑った局長に面食らって、俺はまごついた。
休暇を与えてサチに会いに行かせてほしいという願いの逆とは、一体どういう事なのだろうか。
そう思いつつ、山崎さんを呼ぶ為に一度部屋を後にする。
「サチちゃんは、愛されてますな」
「あぁ、そうだな」
部屋に残っていた二人が、そんな会話をしていたなど、俺は知る由もなかった。
To be continued.
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