内側に悲しみを隠して(いち)




「父上が…倒れた…?」


訪れた土方さんの部屋で聞かされたのは、そんな話だった。


「あぁ、さっき會津藩からの文が来てな…。ほれ、サチにとの文も入ってたぜ」

「え、…あ、はい、すみません」

「親父さんの体についての細かい事は、きっとそっちに認(したた)めてあんだろう。こちらから言えるのは、それについての処置だけだ」


秘密は誰にも話してないです!と土方さんに泣き付くつもりで開いた障子の先で私に言い渡されたのは、驚く程に予想の斜め上をいく言葉。
意味はわかるのに、それを理解する事は容易ではなかった。

(…父上が倒れたって、いったい何故…)


私の手の中で、書状が乾いた音を立てる。
開けば、そこには母上の書いた細い文字が並んでいた。

突然倒れたという事、それからお医者さんには病だと言われたという事が書かれている。
予測し得ない言葉が、私の頭に次々に流れ込んできた。

けど、不思議と涙は出なかった。
きっと、現実として受け入れられていないのだろう。


「こちらには、すぐにでもサチを家に帰してほしいという要請が書いてあった」

「…はい」

「サチ、荷物をまとめてこい。 すぐに籠を呼ぶから、酉の下刻頃には着くだろう。 …そんな顔するな、お父上も大事には至ってないんだろう…?」

「うぁ…そ、そうですね、すみません、そうですよね…! わ、わたし…あの、えっと…」

「…どうかしたか」


「…あ、…いえ……! わ、わたたた、私っ!あの、失礼します!にも、にもつ!まとめてきます!」


勢いよく立ち上がった私に、土方さんは少し口角を上げて煙管をくわえた。
おぉ、と短く言った土方さんに頭を下げて、私はその部屋から出て駆け出した。

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