そして始まる虹色の日々(に)



荷物を部屋の隅におろして振り向けば、サチは真っ赤な顔をして佇んでいた。
首を倒してサチを覗く私に、彼女は気恥ずかしそうに言う。

「こ、この部屋に二人きり、なのを、痛感…、い、致しまして…」

「…、料亭でも二人きりだったんスけど」

「ちっ、違うんです、心持ちが! わわわたしの部屋だから、逆に気にしてしまうんです…!」


そう力説するサチの前に正座をして、畳を軽く叩く。それに促されたサチは、そこに膝を正した。
その顔は、変わらず赤いままだ。
改めて、と前置きをした私に、サチは背筋を伸ばす。


「サチ、お帰りなさい」

「え…っ、あ、あの、はいぃ…!」

「そんなに緊張しなくても…。 今言っておかないと、誰かに先に言われてしまうっスからね」

「うぁ、お、お心遣い、有難うござい…ます?」

「なんか返答として間違っているように思うっス」

「私も、なんか違和感を感じます…」


頬を掻いて言ったサチは、正しい返答を考えているのか首を倒した。
幾ばくかして、真っ赤な顔をして私の手を握りしめる。

唇を引き結んだサチは、それを少し開いてまた閉じて、意を決したかのようにもう一度口を開けた。


「あの…私、この場所に帰ってこられて、また山崎さんと一緒に毎日を過ごす事が出来て、本当に良かったです」

「サチ…」

「だっ、だから、あの、…っ、ただいま帰りました!」


そう言って破顔一笑したサチに、今度は私が赤面する番だった。

この場所にサチが帰ってきたのだと、改めて空気を感じる。嬉しそうなサチに、私も心の底から嬉しくなった。


きっと、これからの毎日は雨上がりの空に架かる大きな虹のような、そんな色とりどりの色彩に塗り込まれていくのだろう。

私はそう思いながら、サチの手を握り返したのだった。




そし






お読みいただき有難う御座いました。
2014/04/19**2016/02/28

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