貴方と四季、(伊東鴨太郎さん)






桜がひらひら舞い落ちる。
私の桜も、舞い散った。

ああ、そんな春……。


溜め息を吐いた私の隣に居る、一人の男。名前は伊東鴨太郎。

小さな頃から隣の屋敷に住んでいる、私の幼なじみである。いや、幼なじみといってもそんなに仲が良いとは思っていないのだが。
とにかく、隣に佇む鴨太郎さんは私の友達という訳ではなく、ましてや恋人という訳でもない。


「何スか、何か用ですか」

「……別に」

「ならどっか行ってくださいよ…感傷に浸ってんですから」

「なまえ、何かあったのかい?」


訊ねる眼鏡の奥の瞳は、どこと無く楽しそうに見えた。いや、無表情で感情なんかわからないのだけど、何と無く、雰囲気がそう語っている。


「……フラれたの」

「男にか?」

「女にフラれてたまるかー!」


そう声を荒げれば、鴨太郎さんはそうかそうかと静かに頷いた。
何をわかってくれたんだか、全くわからないじゃないか。


「そんななまえに、僕から一言良いかな」

「どうぞー?」

「僕は君が好きなんだが、どんな返事をくれるかな」


どくん、と心臓を貫くような感覚。
私は真面目な顔をした鴨太郎さんを覗いて、目をしばたたかせた。


伊東鴨太郎さんと
春の一日。



(どんなって、…どんなって!)



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