コイのカケヒキ。(山崎退さん)





「おーい、ジミー」


名を呼んだ。しかし彼は、答えない。
その代わりに、ラケットが風を切る音だけが延々と耳に届く。


「ちょ、聞いてますかー?」

「…」

「ねーぇ、ジミーってばぁ。」

「……」

「ジミー、ザキ、ミントン山崎〜」

「………」

「さーがー…うぐっ」


「なまえ、マジで五月蝿い。」



思い付く限りの愛称で呼んだら、手の平で口を塞がれた。
しかも頬骨を掴むように、がっしりと。


(今指に力を入れられたら、絶対に痛い…!)


「あのさ、俺の名前知ってるよね。」

「んー、」


こくこく。


「じゃあなんでジミー?」

「んー…んぐむぐぐ?」


掴まれたまま答える。
何を言ってるかなんかわかる訳ないので、本音を言ってみた。

しかし彼には解ったようで、

「へー、『地味だから』?」


笑いながら、そう言った。
きりきりと、指に力がかかっていく。頬骨が痛い。



「むぐー!ぐうーー!」


「痛がってもダメ。俺の事、地味って言った罰だよ」

「んぐむー!」



ギブギブ!
ペシペシと腕を叩いて、そう伝える。
わかってくれたのか、私の顔を開放してくれた。


「おあー、痛かったぁ。」

「あんまり痛かったようには聞こえないけどね。」



私の漏らした安堵の声に、素振りを再開した彼は言った。

(痛くした張本人のクセに!)


むっと頬を膨らませると、私はその場から距離を取り言ってやった。



「でもジミーのそんな所が大好きなんだから!」


その時彼が見せた驚愕の表情は、多分忘れられない。

そう思った、初めての告白。




コイのカケヒキ。


(なまえ、返事は聞かない訳?)

(ダメ! まだまだ片思いを満喫したいんだから!)

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