近付くのは真実の虜か
(に)
近道しよう。
いつの間にやら子供達が家路を急ぐような時間になってしまったので、僕はそう思い立ち、公園の入口に足を向けた。
小百合さんと長谷川さんが仲良さそうに話している姿を見付けたのは、そんな公園のベンチだった。
(ああ、何だ。)
長谷川さんと話しているという事は、小百合さんは異世界の人なんかじゃない。
だってあんなに仲良さそうにしているんだ、きっと前からの知り合いとか、そういうのだろう。
長谷川さんは昔はエリートだった。
そんな長谷川さんと仲が良いという事は、きっと小百合さんも何処かの令嬢とかそういう感じの人なのかも。
(京都の箱入りお嬢様。うん、そんな感じ)
僕は胸中でそう結論付けて、小百合さん達の方へ駆け寄った。
「…小百合の話、信じてくれるの?」
「ああ、っていうか…そんな神妙な面持ちで力説されたら、疑うに疑えないし。信じるよ」
にこりと笑いかける長谷川さん。それに答える様に笑みを零すと、小百合さんは良かったぁと大袈裟に胸を撫で下ろした。
どうやら体ごと長谷川さんの方向を向いている小百合さんから僕は見えないようで、二人は楽しそうに会話を続ける。
「でも、スゴいね。 私なら簡単には信じないと思うなぁ…。目の前に居るのが異世界から来た人間だなんて」
小百合さん、と声をかけようと口を開いた瞬間に耳に届いた言葉。
僕は自分の耳を疑った。
……いせかい?
今 小百合さん、異世界って言いました?
名前を呼び掛けていた唇をだらし無く開けたまま、僕は小百合さんの側まで駆け寄った。
突然の僕の登場に驚いたのか、小百合さんは目を丸くしてキョトンと首を傾ぐ。
長谷川さんは僕と小百合さんを交互に見遣って、「あ、友達なんだ?」と誰にでもなく呟いた。
(…確かに知り合いだ。けれど友達と言うには僕はあまりにも小百合さんを知らなさ過ぎる)
「しん、ぱちちゃん、今、聞いてた、の?」
「…異世界の事…なら、聞いてましたよ。小百合さん、この世界の人じゃなかったんですね」
「……う、…ん」
罰が悪そうに呟く。
力無い返事。僕に知られたくなかったのか。なら何故長谷川さんには話していたのだろう。
僕は理不尽な怒りを握りしめ、小百合さんの前に立ち尽くした。
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