その色に懐かしむ(に)


「…ふあ……やっぱり違う?」


「やっぱりも何も、お嬢ちゃんスタート地点から間違ってたから! そりゃ一人で食べるのにポッキンアイスなんか渡した俺も俺なんだけどさぁ!」

「え、や、小百合、食べ方……わかんなくて…」


怒涛の激しいツッコミ。
まるで初めて会った時の銀ちゃんみたいだ。
アイスを握る手から、つぅっと水が垂れる。どうやら、氷が溶けてきてるらしい。

肘まで流れたそれがこそばゆくて、私は眉を寄せた。


「た、食べ方…教えて……?」


小首を傾げ、オジさんを覗き見る。
なんか怒ってるみたいだから、頼める雰囲気じゃないんだけど…これは仕方がない。
固まったままのオジさんに「ダメ?」と訊ね、さっきと逆の方向に首を倒す。


「……しょ、しょうがないなー。」



少しの間を置いて、オジさんはわざとらしくそう言った。そして私の頭をがしがしと力強く撫で回す。

(く、首が痛い……)


オジさんは私からアイスをひょいと取り上げ、それを見ながらくつくつ笑った。


「大分溶けてる」

「あ、小百合が握ってたから…。ごめんなさい、オジさん」

「いや気にしなくて良いって。とりあえずこの中から、新しく好きなの選んで良いよ」


そう言って立ち上がると、オジさんは側に置いてあった箱を開けて私に促す。その中には、色とりどりの『アイス』が入っていた。

(すごい。冷たくてキラキラしてる!)


喜々として箱を覗き見る。

緑色や桃色など本当に綺麗な色ばかりで、私は顎に指を宛てて唸った。


「…んー…、あ…っ」

不意に、目に入った色に胸を締め付けられる。


突然黙った私を不安に思ったのか、オジさんは一点を見つめた私の目の前でひらひらと手を振った。


「お、お嬢ちゃーん?」

困ったような声が耳に届く。
私は声に答えるように、気に入ったそれを取り出してオジさんに手渡した。


「コレ。 コレが良い。」



渡したそれは、透き通るような空色のアイス。どんな味かは解らないけど、その色は浅葱に似ていて心惹かれたのだ。

(綺麗な淡い青色)


懐かしい、色。
もう何日も見れていない、新選組の羽織り色だ。



オジさんはそのアイスを真ん中でポキンと折って、片方を私に手渡しもう片方は箱の中のアイスの間に刺した。

「それ食べ終わったら、こっちも食べていいから」


そうはにかんだオジさんにうん!と頷きを返し、私は折られた片割れに口を付ける。
しゃり、と噛んだそれは冷たくて、物凄く甘かった。


「そーいえば、まだ名前聞いてないよね。 私は小百合、オジさんは?」


「ん? ああ、俺は長谷川泰三、宜しく小百合ちゃん」



アイスをかじりながら、長谷川さんの宜しく、にヨロシクと微笑み返す。

長谷川さん、いや、泰三ちゃんかな。


私はそう考えながら、青いアイスをしゃり、とかじった。


「この色ね、私の大好きな人の色なの」

「大好きな?」

「そう。大好きな大切な…新ちゃんの色。ううん、新ちゃん達、新選組の色。」


最後は咥内で呟くように言い聞かせた。
しかし泰三ちゃんは『しんせんぐみ』の言葉に反応を示し、訝しげに眉根をひそめる。


(……しまった、こっちの真選組は黒だ)


今更口を噤んでも遅いのだけど、私はぐっと手の平で唇を押さえ込んだ。

すると当然訪れるのは、しばしの沈黙。


「……」

「…」




(うぅ、静寂が痛い。)

結局、静かさに負けて私がぽつりと呟いた。


「……あの、ね」

「…ん?」

「驚かないでほしいんだけど……、小百合、この世界のニンゲンじゃ、ないの」




優しい顔で首を傾げた彼を覗き込み、私はそう言葉を紡いだ。

さて、信じてもらえるかは…


(私、次第か…)



To be continued.


出してほしいキャラアンケートで、三位になったマダオです!
名乗ったの最後でしたが…!


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