気付けば甘くて心地よい(に)



行き違いになって誰もいない家に帰ったら小百合が可哀相だと思い、新八と神楽は家に待機させた。
ついでだから、飯でも作って待っててくれと言ってある。

俺はというと、原チャリを走らせて真選組の奴らの所まで一直線だ。

ちくしょー、ガソリン値上げして切羽詰まってんのによー!

(ガソリン代、真選組に請求してやろうかコノヤロー!)


愚痴りながら、屯所の入口で見張りっぽい事をしている奴らの制止を振り切り、原チャリのまま庭に飛び込む。
盛大に砂埃を巻き上げ横滑りしながら急ブレーキをかけると、俺は辺りを見回した。


「くそ…何処だ」



闇雲に探したんじゃ、絶対に見つからない。無駄に広いもんな、此処。
呟いてキョロキョロと首を回すと、ちょうどイイ所に顔見知りを発見した。


ブン、と空気を切る音が耳につく。
なんか必死な素振り姿が、嫌にムカついた。


「おーいそこのミントン」

言いながら、原チャリで突っ込む。
すると案の定、ぎぃあああ!というでかい声を上げて山崎は大袈裟なまでに避けてみせた。

まぁ、あんだけ思い切り突っ込めば当たり前か。


「…あ…あれ、万事屋の旦那じゃないですか。どうしたんですか?」

「どうしたじゃねーよ、うちの大事な依頼主拉致っといて。」

「は…、拉致?」

「新八から聞いたんだよ、邪魔したら無理矢理連れてかれたって。」


ずずいと詰め寄る。
しかし山崎はキョトンと首を傾げ、そしてあぁ、と指を鳴らした。

どーでもいいが、古くないか。指パッチンって。


「小百合ちゃんの事だ!」

「そーだよ小百合だよ。つーか何でそんな馴れ馴れしいんだお前ふざけんなよ。 その小百合を何処やったかって訊いてんだよ」


「小百合ちゃんなら、多分副長ン所に居ますよ?」


認めたくせに悪びれる様子もなく、山崎はまたブン、と素振りを始めた。

うわ、ホンットにムカつく。しかし、これ以上突っ掛かっても意味はない。

今はとにかく、小百合を連れて帰らなくちゃ……。

原チャリに座り直し、俺はハンドルを握った。


「小百合ちゃんを引き取りに来たんですか?」


けれど、アクセルをかけようとした瞬間、バドミントンのラケットが行く手を阻んだ。
それと同時に、山崎からそう問い掛けが降る。


「…、引き取りに来ちゃ悪いってのかよ」

「いえ、そういう訳じゃ」


山崎は、そう言って笑った。
声は出さず、微笑むように口角を上げる。


「ただ、なんでそんなに必死なのかなぁって思って。」


冷えた笑みが、心に刺さる気がした。

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