迷い込む先は(に)

 

小百合、と。

そう私を呼ぶ声で、目が覚めた。
その声は、懐かしいような耳障りなような、知ってるような知らないような、何て言ったら正しいのか分からない不思議な声で、けれど凛として耳の奥まで響く。

それに揺り起こされた私は、お布団を片してお気に入りの桃色の着物に袖を通した。こんな気分じゃ、もう寝ていられないだろう。

スラリと障子を開け放てば、朝の靄が晴れた京の町が、いやに清々しい。






美しき古の都、京都。
そんな京の都を護衛する新選組。

町の人達は「とんだ人斬り狼だ」と囁いて、“壬生浪”と笑っているけれど、私はそんな事ちっとも思わない。

だって、その新選組の二番隊隊長である永倉新八さんは、私の大切な人。

私の、格好良い格好良い最愛の人。



私は今日も、新八さん…もとい、新ちゃんの所へ顔を出しに行くの。

忙しい時は挨拶ぐらいしか出来ないけど、それでも私は幸せなんです。
幸せの他ならないんです。
それでイイんです。

だから、淋しくなんかは……少しあるけど…でも大丈夫。


新ちゃんも私を好きだって言ってくれてるし、私も新ちゃんがだーい好きだから。

(そういえば、今日は午後からの見回りだから午前中は一緒にいられるかも!)

家を出る前にそう思って、私は扉の外へ飛び出した。

途端、見えていた風景は逆転して。



くるりと回って最後に見えたのは、いつものように広がる青空と、見た事もない空に浮かぶ奇怪なからくりだった。
 

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