僕らの前に永遠は無い(に)



頬の痛みに目を覚ます。
全力で不憫だと思うそれに頭を振れば、ちょうど永倉の胸倉を掴み上げている神楽が固く握った拳を突き出そうとしている所だった。


「うおるぁぁあ!」


肌に固いものがぶつかる音。
どうしても防ぎようがない叫び声。
吹っ飛んだ永倉がソファーごと倒れた音。

思わず目を瞑った俺の耳にいろいろ聞こえ、恐る恐る目を開けば、地獄絵図の真ん中で仁王立ちをしていた神楽が「みんな起きたアルか?!」と憤りを隠さずに声を荒らげた。


「いたたた…。い、一応起きたヨ」

「うあー…俺も。…ん?おい神楽、新八がお前の所為で起きなさそうなんだが」

「はあ?軟弱アルなー!おいコラ駄メガネこのやろー、起きろこのやろー!」

「へぶっ!むごっ!おぼっ!」

「神楽ちゃん、新八君本格的に永眠しちゃうから止めてあげて。つーか、俺達の起こし方も別の方法をとってもらえたら助かったんだけど…」


やんわりと止める永倉は、鼻血を出して頬を腫らしていた。
多分俺も同じような状態のはずだ。

「こんなとこで寝てるお前らが悪いアル!大体、私が出てってる間に何があったアルか、結局小百合はドコにもいないし…」


眉間にシワを寄せて、神楽が言う。
その言葉に、永倉がはっと息をのんだ。

「小百合」と小さく呟いて、焦った様子で神楽に目を向ける。


「神楽ちゃん、探しに行ってくれて有難う。実は小百合 家のすぐ側に居たんだ。それで…またどこかに連れていかれちゃって…。」

そう言った永倉に、神楽は目を丸くした。
じゃあもっかい行くヨ、と足を踏み出した神楽を制し、永倉は俺に目を向ける。


「坂田さん、さっきの奴に見覚えはある?」

「…さっき、って?」

「は? さっきはさっきだろ…。小百合を連れていった、あの黒い服の男だよ。俺は知らなかったけど、妖術みたいに消えていったんだ。こっちの世界の人間だろ?」

「…いや、何言ってんの? さっきの男ってのも意味不明だし、そもそも…」



小百合って誰だ?



理解しがたい事を言う永倉を訝り、俺は首を傾げてそう尋ねる。
けれど、怪訝そうな表情をしたのは永倉も一緒だった。


「…坂田さんこそ何言ってんのさ…。覚えてないノ?」

「覚えてないっつーか、小百合なんて名前は初めて聞いたんだけど。え、新八わかるか?」

「すみません、僕もちょっと…」


苦しそうに眉根を寄せて俯いた永倉に、俺達は困惑を隠せなかった。
けれど次の瞬間、永倉は意を決したように顔をあげる。


「俺、ちょっと探しに行ってくる。神楽ちゃん、手分けして探そう」

「はぁ?! 待てよ、手分けしてって…お前一人でどこまで行けるってんだよ」

「…っ、仕事するのに、何となく必要な道は覚えた!それに真選組にだって行けるし、小百合を探すのに俺の安否なんてどうだっていい!坂田さん達に何がわかるってのサ?!」


永倉の切実な表情に胸が塞がる。
身も世もないそいつの言動に、俺は食い下がるしかなかった。


「…俺も行く」

「銀ちゃん?」

「神楽と永倉だけが知ってるそいつを、俺も一緒に探してやるよ。 永倉の足になってやらぁ」

「坂田さん…」

「しおらしい永倉なんか気持ち悪いんだよ、いつものムカつくお前に戻れっつーの」

「…なにそれ、感動した俺がバカみたいじゃない? いつも言ってるけど喧嘩なら買うからネ」

「上等だ」



永倉の背中を思いきり叩いて、それから神楽の頭をはたく。
痛がる二人に、俺は口角を上げた。




「てめぇら二人の謎の記憶に、全力で働いてやるよ」


そう言えば、変なこと言ってるのは俺の方だと、二人は唇を尖らせる。
そんなの知ったこっちゃない。ただ、どちらがおかしいにせよ、突き止めるべきは『小百合』という女の所在だ。


俺は鼻血を拭い、ひとつ息を吐いた。


To be continued.

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