黒と無音(に)



チクリと痛んだ胸は、じんわり熱を持っている。
小百合、と夢の中で私を呼ぶ声は、やっぱり聞き覚えなんかなくて、でも、なんだか懐かしくって。

その不思議な声は、頭の中で響いて離れなくなるのだ。


『…小百合』


あぁ、ほら。
また私を呼んでるの。

どうせ声は出ないんだろう。
私は唇を結んだまま頬を膨らませた。

返事がしたいのに出来ない歯痒さは、前と同じだ。
でも、少しだけいつもと違う。

胸が、胸についた印が痛む。

いつもは夢の中だから痛いなんてなかったのに。




…あれ?それって、これは夢じゃないってこと?


じゃあもしかして──


「…喋れる?」

『あぁ…!小百合!』

「やった、お話し出来た!」

『ようやく声を聞かせてくれたね、ずっとこの時を待っていたのだよ…』


本当に待ち望んでいたんだろう、その声は少しだけ泣きそうに言った。

貴方はだぁれ?
なぜ私を呼ぶの?
貴方はどこにいるの?

質問はたくさんあった。
けれど返答はなんだか不思議だ。


『私は君の側にいるよ。だって私は小百合が必要で…、それから君の命には僕が必要不可欠なのだから。待っておいで、もうすぐに君に会いにいってあげるから』



質問に答えているような、答えていないようなそれに、私は閉口してしまう。

せめて、名前を教えてもらえたら少しはスッキリするのにな。
けれども期待は期待のまんま、叶えられずに終わってしまった。




『さあ、異なる世界から来たる神子。異世界の姫、小百合。君の命は、もう私の手の中に……』





不可解な事を言い残し、その声は聞こえなくなった。


それから猫の鳴き声が聞こえて、胸の印が思い出したかのように疼きだす。



痛い…ううん、熱いと感じるそれに眉を顰めたら、じわじわと現実に意識が戻る。

次に目を開けたら、そこはしんちゃんと私の部屋だった。

誰もいない、がらんとした部屋。


「…行かなくちゃ」


私はそんな部屋の中で、ぽつりと呟く。
未だに揺れが収まらぬこの場所で、しんちゃんに会う為に私は歩き出した。


To be continued.


弔辞様よりお題お借りしました。


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