ほんの少しの星屑で
(に)
飛び越えて、闇に紛れる。
夜はまだまだ長くて、けれどこの世界は夜でも太陽以外のものが絶えず光っていた。
闇に乗じて忍び込もうにも、曲がり角から先は『電気』が点いていたりする。
ちょうちんなんて目じゃない程に辺りを照らすそれらは、俺達を拒むかのように感じた。
(…小百合、平気かな)
夏特有の纏わり付く暑さの所為で滲んだ汗を拭い、俺は空を見上げた。
「…おい、永倉」
「何さ」
「…今、こんな時に言うような事じゃねえが、俺はお前には負けねぇって、いつも思ってる。小百合がどんなにお前を好いてようが、お前のもとからあいつを奪えたらどんなにいいかと考えた事もある」
「…ふぅん」
とうとうと語る坂田さんに、俺は視線を空からおろす。
真面目な面持ちで言う彼を茶化したり、邪険にしたりは出来やしないだろう。
「でもこれだけは、自信を持って言える」
「…」
「俺は、小百合に笑っていてほしい。幸せであってほしい」
「…そう」
そんなの、俺だって思ってるよ。
そうじゃなきゃ、数年前に島原から逃げたあの子の事をどうして今まで支えていられようか。
小百合は弱い。
遊女の隠し子だという理由で母のいた置き屋に売られようとしていた状況が嫌で、そこから逃げるしかなかったんだから。
でも、小百合は強い。
逃げた後も弱音は吐かないで、生まれてから一度も会ってない母親の知り合いに身請けされた後も、そこで一人立ちしようと頑張っているんだから。
俺は、彼女を支えてあげたい。
笑っていられるよう、側にいてあげたい。
「…早く、助けに行かなくちゃいけないネ」
「おう、ったりめーよ」
空には量の少ない星が光っている。
港に止まっている空を飛ぶカラクリに何とか近付いて、そっとそこへ忍び込んだ。
待っていてネ、小百合。
すぐに迎えに行ってあげるから。
To be continued.
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