君を想えば(に)



次に目を覚ましたのは、知らない部屋の真ん中だった。
着ていた筈の羽織りは枕元に畳んであり、腰に差していた刀も、そこに置いてある。

誰かが介抱するので脱がせたのだろう。


「……でも、誰が?」

俺は屯所に居た筈だ。少なくとも、こんな場所に来た記憶はかけらも無い。

だとしたら、俺は何でこんな部屋で寝てたんだろう。



(わかんないナ…)

溜め息を吐いて頭を掻く。
ふと袖の中が気になり、そこをまさぐった。

(……アレ?)

しかし袖の中で掴めるのは空虚だけ。
入れていた筈の小百合の鏡が、無くなっている。


「嘘、なんで…?!」


バタバタと腕を振っても、寝ていた布団に目を落としても、何処にもない。
落としたんだろうか。

いや、でも何処に落としたんだか、皆目見当がつかない。

もしかしたら、この部屋の外かもしれない。俺はそう思い、恐らく隣の部屋に続いているのだろう襖を思い切り開けた。



「ワン!」

しかし突然視界を埋める白。
開け放った戸から手を離さず、俺はただその白に驚愕するしかない。


それは大きな大きな白い獣で、そいつは戸を開けた目の前を陣取っていた。





「ワン!ワンワン!」

「あっ、定春めっアル!」


そう聞こえたかと思うと、白は赤に変わりそのまま右方向に吹っ飛んだ。
代わりに視界に入ったのは、白銀の髪をした男と眼鏡をかけた少年。少年は俺に気付き、ぱっと笑った。



「良かった、気が付いたんですね。」

「え? あ、あぁ、お蔭様で…」


どうぞ、座って下さいと、少年は銀髪の向かいから隣に移動して、俺に促した。
断る理由もないので、俺はその西洋風の長椅子に腰をおろす。

なんか、ふかふかして座りにくい。
畳んだ布団に座っているような不安定感に苛まれつつも、俺は前にいる銀髪に顔を向けた。



「あー……俺は坂田銀時っつって、万事屋をやってんだ」

「で、僕はその手伝いをしている志村新八って言います。さっきの女の子は神楽ちゃんで、犬は定春です」


「……俺は、…あ…」



名乗って良いか少しだけ悩んだけれど、訛りのない喋り方からして長州や土佐の人間ではなさそうだ。攘夷でないならば、良いだろう。

それに、何かあれば最後には斬るだけだ。

(あんまり、気が進む物じゃないけどネ)

言葉を詰まらせた俺に、二人は目線で続きを促す。俺は小さく溜め息を吐いてから、顔をあげて名を名乗った。


ねえ、小百合。
俺の身に一体何が起こったっていうんだろう。


悩む程解らなくなる現実に、目を背けたくなる。けれど前を向いて、必ず君を捜し出してみせるから。




To be continued.


……すみません。
やっと永倉さん出ました。

これからヒロインと絡む…んですが、やっぱりシリアスな路線は変わらないので、甘い話は書けるかどうか…。
頑張ります、下手したら番外編でやります。


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