キスペット。 16 鳶色の髪も、顔も、白い体液でどろどろに汚れた姿。 それを眺めて、はぁ、と知己は溜息を吐いた。憂う顔とは裏腹に、またもや屹立が力を持ち始めるのを見、さすがの海晴も瞠目した。 「…と、知己さん…」 「だから言っただろ…俺を勘違いさせて、良いことなんてないって…」 嫌がる彼を縛りつけ押さえつけて、何度も顔に射精して。させて。 そんな彼の姿を見て、また興奮する自分に、嫌気が差す。 「君の幸せは、こんなとこにはないよ。俺のことなんてもう一度忘れて、キスペットの仕事もやめるんだね」 手の縛めを解き、寝室を後にしようと背を向けた。 けれど。 その背に、しがみついてきた、彼。 「ごめん、知己さん。判んない」 「な、なにが」 「俺、知己さんにキスしてもらって、すごい、気持ち良かった。知己さんは? 気持ち良かった?」 なにを言うのか、この子供は。 ヨくなければ、顔射などしない。 「他のひととキスして、こんな、気持ち良くなったことない。知己さんとキスしたいって思うのは、幸せとは、違うの」 「…ハル君」 それは、君のお客さんが良いひとで、普通に口へのキスしかしなかったからだと思う。 そうは思うのだが、おそらくこれは、この『壊れた』子供の、精一杯の表現なのだろう。 (…愛情、表現) 「俺と居たら、ひどいことされるって、判ったでしょ」 肩越しに振り向いてひと言ひと言、言い聞かせるように告げる。けれど海晴は、白濁に汚れたままの顔で見上げてくる。ずくりと屹立が痛む。 「知己さん、俺になにかひどいこと、…した?」 「…」 この危うい青年は、なにも判っていない。それほどまでに、『壊れて』いる。 愛する気持ちはもちろんある。けれど知己のそれが、肉欲を必ず伴うものであることを、彼は判っていない。 歪んだ愛情が、じわじわと狂気になるのを自分でも感じた。 ゆっくり振り向く。白濁塗れの頬に触れる。 「じゃあハル君、…君を俺の…俺だけのキスペットにしていい? ──気持ち良くしてあげる。つまりそれが君の幸せなのなら、幸せにしてあげる」 きょとんとする顔に、知己は包み隠さず、海晴を騙す。 「たくさん、ひどいことするよ。恥ずかしいことも、嫌がることも」 うっすらと笑って言えば、海晴はただ純粋に、笑顔が見られたことに安堵したのだろう。彼はこくんとひとつ頷いて、幼い顔をふにゃりと幸せそうに緩めた。 「うん、──いいよ」 end. [*前] | [次#] 『雑多状況』目次へ / 品書へ |