キスペット。

16



***

 鳶色の髪も、顔も、白い体液でどろどろに汚れた姿。
 それを眺めて、はぁ、と知己は溜息を吐いた。憂う顔とは裏腹に、またもや屹立が力を持ち始めるのを見、さすがの海晴も瞠目した。

「…と、知己さん…」
「だから言っただろ…俺を勘違いさせて、良いことなんてないって…」

 嫌がる彼を縛りつけ押さえつけて、何度も顔に射精して。させて。
 そんな彼の姿を見て、また興奮する自分に、嫌気が差す。

「君の幸せは、こんなとこにはないよ。俺のことなんてもう一度忘れて、キスペットの仕事もやめるんだね」

 手の縛めを解き、寝室を後にしようと背を向けた。
 けれど。

 その背に、しがみついてきた、彼。

「ごめん、知己さん。判んない」
「な、なにが」
「俺、知己さんにキスしてもらって、すごい、気持ち良かった。知己さんは? 気持ち良かった?」

 なにを言うのか、この子供は。
 ヨくなければ、顔射などしない。

「他のひととキスして、こんな、気持ち良くなったことない。知己さんとキスしたいって思うのは、幸せとは、違うの」
「…ハル君」

 それは、君のお客さんが良いひとで、普通に口へのキスしかしなかったからだと思う。
 そうは思うのだが、おそらくこれは、この『壊れた』子供の、精一杯の表現なのだろう。

(…愛情、表現)

「俺と居たら、ひどいことされるって、判ったでしょ」

 肩越しに振り向いてひと言ひと言、言い聞かせるように告げる。けれど海晴は、白濁に汚れたままの顔で見上げてくる。ずくりと屹立が痛む。


「知己さん、俺になにかひどいこと、…した?」
「…」


 この危うい青年は、なにも判っていない。それほどまでに、『壊れて』いる。

 愛する気持ちはもちろんある。けれど知己のそれが、肉欲を必ず伴うものであることを、彼は判っていない。

 歪んだ愛情が、じわじわと狂気になるのを自分でも感じた。

 ゆっくり振り向く。白濁塗れの頬に触れる。

「じゃあハル君、…君を俺の…俺だけのキスペットにしていい? ──気持ち良くしてあげる。つまりそれが君の幸せなのなら、幸せにしてあげる」

 きょとんとする顔に、知己は包み隠さず、海晴を騙す。


「たくさん、ひどいことするよ。恥ずかしいことも、嫌がることも」


 うっすらと笑って言えば、海晴はただ純粋に、笑顔が見られたことに安堵したのだろう。彼はこくんとひとつ頷いて、幼い顔をふにゃりと幸せそうに緩めた。



「うん、──いいよ」




end.

- 189 -
[*前] | [次#]

『雑多状況』目次へ / 品書へ


 
 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -