君が好きだから

03


 夕隆の手が離れて、平均より身長の低い俺は、慌ててきょろきょろして。

「ッ!?」

 突然触られたケツに驚いて跳ね上がった。明らかに触ることを目的とした、触り方。
 恐る恐る振り向くと、そこには見たこともないおっさんが立っていてニヤついていた。短いスカートの裾から、手が忍び込んでくる。

「可愛いねぇ、君…」
「ッ!」

 触ってんじゃねぇ。そう言おうと口を開いた途端、痴漢が自分の唇に指を当てた。

「しぃ。君、男の子だろう? こんな格好して…おや、パンツまでちゃんと女の子のを履いてるんだね…。可愛いおち○ちんが出ちゃってるよ? 触られたかったんだろう? こうして…いやらしい子だ…」

 耳に息を吹き込むようにして、それでもギリギリ聞き取れるくらいの声で、痴漢が言う。

「――っ!」

 薄っぺらな下着をちょっと動かすだけで、俺のアソコは簡単に空気に触れて。俺は自分が女装しているのだということを改めて思い知らされ、声を失う。こんな、女装して痴漢されましたなんて、言えない。

(た、すけて…ゆた…!)

 心の中で叫んだとき、扉が開いて、再び力強い手に手首を掴まれ、俺は電車から脱出していた。手の主は、当然夕隆だ。慌てて陰に隠れながらアソコを直す。
 助かった。不覚にもちょっと泣きそうになる俺に、けれど夕隆は冷たい視線を向けた。

「…分かったか?」
「なにが」
「…お前な、痴漢されたろ」
「ふ、不可抗力だ! ゆただって女狙いの痴漢が男もイケるなんて思ってなかったろ?」
「…」

 夕隆は完全に黙り込んで、俺を睨んだ。いや、呆れている、という風な顔に見える。

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