朝の光景

01


 憂鬱な気持ちで電車を待つ。

 今、並んでいる後ろの奴が?
 いや、前の奴かも。

 疑心暗鬼と自意識過剰でどうにかなってしまいそうだ。

 俺――児玉 透は、今年の春、就職が決まったばかりの新米サラリーマンだ。
 仕事は大変だが面白くて、先輩もいいひとばかりで、社会人としての生活を俺はエンジョイしていた。

 だが。
 忘れもしない、1ヶ月前の月曜日。

 俺は、痴漢に遭った。

 間違いようもなく俺は男なのに、満員の車内でケツを撫で回され、こともあろうか(ズボンの上からではあるが)ちんぽまで握ってきたのだ。

 情けないことに俺はパニックに陥って、電車が止まって扉が開いた途端、降りるはずではない駅に飛び降りてしまった。
 あのとき、きちんと対処できていれば、もっと状況は変わっていたのだろうか。

 俺はあれから毎日、痴漢に遭い続けている。

 時間を変えても、車両を変えても、無駄だった。ここまで来ると、家まで知られているんじゃないかと思いたくなる。
 そして、痴漢はひとりではなくなった。
 俺のちんぽを両手でいじくっているときに、背後から胸をまさぐってきたのだから間違いない。

(ったく……)

 男の躯なんて触って何が楽しいのだ、とは思うのだが。
 かなり、とても、非常に情けない話で。
 俺はその痴漢達の手技に踊らされ、いつも、毎日、感じさせられてしまうのだ。

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