Hunt your...

01


 新月の夜は楽しみだった。

 魔物の力は月夜に上がり、陽の光の下で弱まるのだと無条件に信じている者が多い。月は太陽の光を反射しているのだ。何も無い闇夜が最も力が強まるのは道理だろうに。

 けれど愚かな人間はそれを知らず、新月の日を狙ってやってくる。
 人間の血を糧とする吸血鬼にとって、これほどありがたいことはない。

 ワイズはまた訪れた人影に、唇から牙を覗かせて凄絶に笑った。
 その影は、かつて訪れた人間達よりずっと若かった。

 金糸の髪に、暗闇の中でも透る青の目。
 絵画にでも描かれそうな風貌だ。魔物の餌食となるに相応しい。

 果敢で無謀にもひとりでワイズの根城たる洋館を訪れた青年をじっくり観察して、青年に怯えの色がないことが更に気に入った。
 高見の見物をやめ、ワイズは吹き抜けの二階から声を掛けた。

「こんばんは? 少年」
「! ワイズ・ロス?」

 暗がりになっていて青年からワイズの姿は見えないだろうが、声の方角を頼りに、青年は無骨な銃を構えた。
 やはり声に、怯えはない。

「いかにも。私に何か用かな」
「野暮用さ。ひとの世に害成すあんたを消しに来た」
「ほぅ」

 慣れた口調。ワイズは青年が『ハンター』であることを知る。
 てっきり身内を殺された復讐、報復などとほざいて来た無鉄砲かと思った。

 しかし、今宵は新月で、相手は子供だ。何ひとつ恐れることはない。

 自信を持ち、強気な光を放つ眼を屈服させるのは、ワイズのこの上ない愉しみでもあった。

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