もう耐えられません

04



「…先生、愛してる…」

 そのまま後藤は俺を何度も抱いた。犯した。貪るような余裕のない抱き方だったけど、

「ぁっ…ぁんっ…ぁふ、ぁ…ッはぁ…っ」

 いつも通り起きながらに意識を飛ばした俺も貪るように腰を振った。

 後藤。後藤。後藤。
 何度も呼んで、しがみついて。いつも以上に快感が躯のナカを走り抜けて暴れ回って、頭が真っ白になって。

「ごと…っ、もっと…いっぱい触って…っ」

 兄に触れられた場所──乳首や性器に後藤の手を導いて、恥ずかしいおねだりをしまくった。土曜日も、日曜日も。

 塗り潰して欲しかった。消してしまいたかった。
 それが何故かも、よく考えもしないまま。


 けれど悪夢は、終わらなかったのだ。


   §


 仕事を終え、後藤からの放課後の行為も終えて、ふらふらになりながら駐車場で車のキーを開いた途端、背後から口と躯を押さえつけられた。

「ッ!?」

 もちろん驚き抵抗したが、相手は複数人居て全く叶わず、俺は手から自車のキーを奪われ、俺自身も目隠しされた上でどこかの車に詰め込まれた。

 つまり、──誘拐された。



 猿轡も追加され腕と足も縛られて、俺は芋虫みたいな状態で男達に荷物のように運ばれた。

 混乱一色だった俺の頭も僅かに冷えて、疲れと恐怖に動きも鈍くなっていた。
 実家は身代金なんて請求できる家庭じゃない。となれば確実に殺されるだけだ。殺されるほどの怨みを買った覚えはないが、そこに俺の感覚は関係ない。
 複数犯。計画的犯行。よりによって成人男性を選ぶのはやはり怨嗟か、あるいはなにか猟奇的な意図のある──。


「はいお疲れさま。そこに縛り直しといて。あ、口のはそのままで」


 部屋に入ったのだろう。空気感が突然変わり、軽薄な声がそう言うのが聞こえた。この声。

(後藤の、お兄さん…!?)

 戦慄すると同時、目隠しが外された。

 後藤によく似た顔つきの、でも暗めの茶髪で身なりはスーツ。僅かネクタイを緩めていることとその口調で軽薄な印象を受けるが、蛇のような陰湿さを含んだ目をしていた。

「ごめんねー青木先生、手荒なことして。でもこれが1番確実で想定通りの形に運べるからさ」

 部屋は豪華なホテルの一室、という雰囲気の場所だった。大きなベッドに大きなテレビ、一人掛けのソファ、ローテーブル。

 俺はソファの向かいに据えられた、見たこともない拷問器具みたいな椅子に座らされて両手足首をそれぞれ固定されてようやく、猿轡が外された。
 俺を連れて来た屈強な男達は俺の椅子の後ろに待機しているようだ。

「…なんのつもりですか、これは」
「あ、敬語いいよ先生。先生のが年上だしね。ん? んじゃ俺が敬語使うべき?」
「…あなたに『先生』と呼ばれる筋合いはありませんが」
「敬語いいのにぃ。でも残念、あるんだよ先生。10年くらい前? 先生、大学時代にバイトで塾講やってたっしょ? 俺、そんときの生徒だよ」


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