せんぱい!

01



「あーあ、今年も男率高ぇよなぁ」

 上総の隣で、生徒会役員として入学式に参加している大沼がぼやく。

「一昨年まで男子校だったからね。女子が増えるまで、かなり掛かるだろうな」

 同じく生徒会役員として参加している上総は、整然と並んだ初々しい新入生たちを眺める。
 大沼がまた息を吐く。

「あーあ、カワイー後輩に『せんぱーいっ』ってやって欲しかったのになぁ」

 その言葉に、上総も笑う。
 そして、ひとりの生徒に目を留めて、誰にも気付かれない程度に、そっと目を眇めた。

「…まだきっと、望みはあるよ」


+++


 その生徒は、黒い髪に、小動物のような愛らしい顔つきの男子だった。
 名は、入瀬 望。

 上総は生徒会への勧誘という名目で、望に近付いた。
 望も何故こんなに熱心に勧誘してくるのか、多少は疑問に感じているようだった。
 が、上総は自らの容貌が『美形』であることを知っている。『美しい存在に必要だと求められる』ことが、魅惑的であることを理解している。

 望もすっかり上総の思惑にはまり、入学式からたった5日目には、上総は望を早朝の生徒会室に呼び出すことに成功した。

「朝早くから呼び出したりなんかして、ごめんね。これ、お詫び」
「い、いえ! そんな…! あ、あの、ありがとうございます」

 紙コップに入ったコーヒーをそろそろと受け取り、望は空の生徒会室を珍しそうに眺めた。
 生徒会が稼動するのは昼休みと放課後だ。1限も始まらない時刻では、誰も来ない。

「そんな緊張しないで。まぁ飲んで」

 促すと、危なっかしい手付きで望はカップを傾けた。

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