合意 | ナノ


(サスケと水月)


 欲求不満なのだろうか?――近頃彼を虐めてばかりいる。
 しかしどうにも止められないのだ。一度やってしまったら、あの感覚・あの表情・あの反応…忘れることなどできない。
 昨日は泡を吹くまで首を絞めてやった。一昨日は吐くまで指を喉奥に突っ込んでやった。その前も、その前も…かれこれ一週間は続いている。
 『戯れ』や『悪戯』と表現すれば凄味が足りないような気もするし、やはり、無難なのは『殺人未遂』だろう。

(これを彼との合意でやっているのだ。…凄いと思わないか?)





「水月」
「ん?なあにサスケ」

 至って普通の態度だった。
 昨日首を絞めてやったとは思えないくらい飄々とした態度だ。しかし首には『痕』がくっきり残っており、見る程に生々しい。
 ソファーに寄っ掛かる彼に近付き、後ろから頬を撫でた。そのまま耳まで撫で上げるとピクリと身体が揺れた。
 耳元で囁く。水月は耳が弱いから、耳を攻めればすぐ官能的な表情になる。

「今日は何したい」

 ――水月はそのまま目を閉じた。





「さすけ、くすぐった、い」

(くすぐったい…?)

 首を絞めているというのに、なぜ『くすぐったい』なんだ?
 目を細め、笑ってる。しかし苦しいのか、いや、苦しいだろう…口は半開きで、釣り上げられた魚のように身体中が痙攣を起こしていた。
 くすぐったいなんてただの強がりだろう。本当は首を絞める俺のこの手が憎くて憎くて仕方ないはずだ。…でも俺自身は憎めない。
 ――愛しているから。

「水月……おやすみ」
「う、ん」

 笑った。そのまま目を閉じる。
 …今日は泡を吹かす前に気絶させてやった。開いたままの口に白色が彩られていないのが物悲しかったが、たまにはこんなのもいいだろう。
 安らかに眠る(死んではいない)水月の表情を見たら、安心したから。
 キスをする。痕だらけの首を優しく撫でながら。

(愛しているからこんなことをするのか?…だとしたら俺は相当おかしな性癖だ)

 唇同士を重ねたまま、ふと考えた。

(ならば水月は?コイツはこんなことをされて、嫌になっていないだろうか?合意なんて言葉は所詮一時凌ぎでしかない姑息な真似だ)

 唇を離すと、わずかに糸が引いた。反射して銀に艶かしく輝いたそれはすぐにプツリと切れたが、美しいと感じた。
 ……。
 そういえば、水月は以前こんなことを言っていた気がする。それがきっとこんなことを始めた理由で、やめられない理由。

「サスケとのキスは好きだよ。でもずっとしてると、おかしくなりそうなんだ。ん?だってそれ以上のことを望んじゃいそうだからさ」


合意


20111029 欲求不満はお互い様だったな


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