一日前の故郷 | ナノ
(デイダラと両親)
※捏造含みますので、一応ご注意を。
拝啓お母さん――俺、いやオイラは、昨日犯罪者になりました。正確に言うと、犯罪者だらけの組織の一員になりました。
『好きなことをしていなさい』。それがアンタの口癖だったよな。
ありがとう。
アンタの言葉の御蔭で、オイラは気を遣うことなく爆破テロを行うことが出来ている。
まあ、なんつって。既にアンタは死んでいるんだろうが、オイラにとっちゃカンケーない。
ただ、犯罪仲間に、昔話を聞かせてやっただけだ。
一日前の故郷
「へェ…父親がのんだくれね…可哀相に」
「アンタ、思ってねぇだろ。うん」
「いやいやいや、まあ有り得る話だぜ。忍の中にもいるんだ。任務失敗して逃げ出す奴ァ」
サソリの旦那――は言った。それは心の弱い奴がすることだ、と。
つまり、オイラの父親は臆病者ってわけ。
「最初はメソメソしてるだけだったんだけどさ…後から後から、今まで呑んでも吸ってもなかった酒やら煙草やらに手を付けはじめて」
「終いにゃ息子にまで手をかけたか」
首を横に振った。旦那は頭上にクエスチョンマークを浮かべているような顔をする。
わかんなくて当然だ。両親に愛されていた人間にわかるはずがない。
自分が身に染みてわかっているんだ。"虐待"の過程は。
「オイラだけじゃない。止めようとした母さんにまで手を出したんだ」
「…家庭、崩壊するわな。そら」
「臆病な奴ほどよく吠えるって言うだろ。父さんは失敗してから二度と任務に行ってない」
――…父は、それなりに強い上忍だった。
のんだくれる前に任された任務は、岩隠れに伝わる禁術の保護。半永久的に続くような苛酷な任務だ。
里の"禁"術は必ず他里に狙われる。この里では禁術でも、他里からしたらただの戦争に役立つ"珍しい"術だからだ。
父は他里から禁術を奪いに現れる敵を倒さなくてはならない。
敵がいなくなるまで――つまり、戦争が終わるまで。
「心が、弱かったんだ。だから奪われた」
「…禁術は、どうなっちまったんだ?使われたのか?」
「いや、何十という数の上忍が必死で取り返したみたい」
「ふーん」
禁術を奪われた父は当然の如く汚名を着せられた。
『弱者』『くたばり損ない』『裏切り者』…エトセトラ。そしてその父の家族であるオイラも必然的に馬鹿にされる。
『任務を遂行出来なかった弱者の息子は、強くはなれない』
悔しかった。哀れだと思った。
自分が馬鹿にされることがじゃない。それを聞いて泣きわめく父を見ているのが、だ。
「最初から多人数態勢で守ってりゃあよかったんだ」
「今更遅いよ。うん」
「まあ、そうだけどよ…」
「そして何より、父さんは"信頼"されていたんだ。だから裏切り者と呼ばれた」
「…そうか」
母は口癖のように言っていた。『自分の好きなことをしていなさい』と。
その言葉にどれほどの深い意味が込められていたのかは未だにわからないが、それでいいと、オイラは思う。
父に惑わされず生きてこれたのは、その言葉の御蔭だから。
「で?どうなった?」
旦那はいつの間にかベッドに横になっていた。結構長話だったみたいだ。
ソファーから立ち上がり、窓を開ける。夕焼けが眩しかった。もう沈む。
欠伸をかいて、伸びをする。
「死んだよ。酒とクスリに溺れてね」
これから昨日パートナーになったばかりの、サソリの旦那と初任務だ。
この、岩隠れの里で。
「母親は?」
「…さァ…五年くらい前に姿を消したよ。死んでるんじゃないかな」
旦那は少し黙ってから、そうか、と呟いた。起き上がりマントを羽織る。
自分も、マントを羽織った。
おかしな表現かも知れないが、犯罪者である"証"みたいなものだ。
「宿を出るぞ。準備に不足はないな」
「初任務だ。怠れないよ」
「ふん…じゃあ、行くぞ…むやみやたらに"禁術"は使うなよ」
「ははっ、面白い冗談」
宿を出た。夕暮れる岩隠れの里が目の前に広がる。
「会っちまったりしてな…」
「そんなわけないだろ。うん」
2011/04/16 里の者が里の禁術を奪う例